【社説①・12.03】:宿泊税条例案 見切り発車は禍根残す
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.03】:宿泊税条例案 見切り発車は禍根残す
北海道は観光振興目的の新税「宿泊税」の条例案を第4回定例北海道議会に提出し、審議が本格化している。
制度設計の全体に課題があるが、ここにきて宿泊税を先行導入した後志管内倶知安町とのあつれきが表面化している。
道の制度は宿泊料金によって1人1泊100~500円課税する「段階的定額制」だ。倶知安町は宿泊料の一律2%を徴収する「定率制」をとる。
町は仕組みが複雑となり、徴収を担う宿泊事業者に過重な負担を強いると指摘し、町内では道も定率制とするよう求めた。
だが道は無理だと判断した。鈴木直道知事は一般質問の答弁で「大変心苦しく思っている」と述べた。宿泊税導入には市町村の理解と協力が欠かせない。見切り発車では禍根を残す。道議会は結論を急がず、各論点について慎重に審議すべきだ。
宿泊税は自治体が条例によって定める法定外目的税だ。行政サービスを享受する観光客にも経費を負担してもらおうと、導入が始まった経緯がある。
だが道の設計では、観光地の環境整備やオーバーツーリズム(観光公害)対策など、身近なサービスは市町村の役割だ。道は広域的な施策を担うという。
年間45億円を見込む税収のうち、17億円程度を欧米豪で人気の体験型観光「アドベンチャートラベル」推進や国内外でのプロモーションなど、観光の高付加価値化のために支出する。
客単価の高い富裕層を誘客する施策が目立つ。観光の活性化に一定の効果は期待できよう。
ただ大きな恩恵を受けるのは主に高級宿泊施設や周辺地域だろう。受益が偏れば道民を含む納税者の理解は得られない。観光資源が乏しい地域を含め全道に受益が及ぶ仕組みが必要だ。
検討過程にも疑問がある。道は当初、簡素な制度にしたいとして1人1泊100円の「定額制」をベースに議論を始めた。施策充実を求める観光事業者の要望に応じて、より税収が見込める段階的定額制に変更した。
税額確保の論議ばかりが先行し、税制度で肝心の「負担と受益」の関係が十分検討されたとは言えない。道内宿泊の3割強は出張などの仕事や通院、介護、帰省など観光目的外だ。
東京都や大阪府は低額宿泊を免税としている。道は研究を尽くしたのだろうか。
「道と市町村が一緒に新税を検討すべきだ」と訴えた市も複数あったが道は独自路線をとった。市町村との調整不足は否めない。今からでも修正すべき点は修正すべきだ。
元稿:北海道新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月03日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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