【社説①・02.26】:GDP600兆円/見かけだけで実感できぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・02.26】:GDP600兆円/見かけだけで実感できぬ
内閣府が公表した2024年の名目GDP(国内総生産)は前年比2・8%増の609兆2887億円となり、600兆円の大台を初めて超えた。15年に当時の安倍晋三首相が「20年ごろの達成」として目標に掲げた数字であり、4年遅れでようやく実現に至ったことになる。
しかしGDPが成長したといっても、国民の多くは暮らし向きが好転したとの実感を得られていない。長引く円安がもたらした物価高に賃上げが追いつかず、個人消費の低迷が続いているのがその証しだ。
そもそも今回のGDP600兆円超えも物価高でかさ上げされた側面が大きく、物価変動を除いた実質ベースは557兆4064億円、前年比0・1%増にとどまる。
政府と経団連は1月末、官民の連携で国内設備投資を30年度に135兆円、40年度には200兆円に引き上げる目標を掲げた。企業の旺盛な事業意欲は経済を成長させるのに不可欠な要素だ。
だがGDPの半分を占める個人消費が伸びなければ、さらなる経済成長は見通せない。そのためには、中小零細も含めた幅広い賃上げを実現し国民の懐を温めるしかない。
政府は現在もデフレ脱却を経済施策の柱に掲げるが、個人の財布のひもは緩んでいない。24年10~12月期の働く人の賃金などの総額を示す実質雇用者報酬は前期から1・5%伸びた一方で、個人消費は0・1%の伸びにとどまった。
新型コロナウイルスが5類に移行した23年5月以降も、個人消費の下落傾向は続く。政府が唱える「物価上昇と賃上げの好循環」を、国民が実感できていないからだ。
24年7~9月期や10~12月期のGDPは、いずれも輸出が前期を1%以上も上回り、全体を押し上げた。円安で海外向け製品の売り上げが伸びた上、輸出にカウントされる外国人観光客の国内消費も寄与した。高度成長期と同様に、日本経済の輸出頼みが今も続くことを指し示す。
懸念するのは、世界情勢の不安定さが輸出にも暗い影を落とす点だ。一例が、トランプ米大統領が4月以降の導入を表明した自動車への関税強化である。日本に適用されれば、実質GDPを2年間で0・2%押し下げると試算される。景気後退の引き金になる可能性は否めない。
かつて米国に次ぎ世界2位だった日本のGDPは、中国やドイツに抜かれ4位に転落した。数年内にはインドを下回るとの分析もある。国力の低下は明らかだ。
600兆円超えに気を抜かず、輸出頼みを脱して内需を拡大し、国民が成長を実感できる経済への転換を着実に進めねばならない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年02月26日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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