石川県では建物倒壊などで228人が犠牲となった。避難生活に伴うストレスなどで亡くなる「災害関連死」を含めると、新潟、富山と合わせ、3県で死者は500人を超えた。
死者が多かったのは輪島市、珠洲市、能登町、穴水町の奥能登地域だ。最大震度7を記録し、輪島市では大規模火災が起きた。東日本大震災以来の大津波警報も発表され、浸水被害も出た。
能登半島地震で被災した人々が集う「復興カフェ」。左から2人目が企画した東井孝允さん=石川県穴水町で2024年5月26日(東井さん提供)
道路や水道など生活インフラの復旧は遅れ、住宅の公費解体は申請の約3割にとどまる。多くの医療機関が休診や診療時間の短縮を余儀なくされている。
9月には記録的大雨にも見舞われた。余震が続く中、大雪シーズンを迎えた。住民からは、不安と不便が解消されない日々に「心が折れる」との悲鳴が聞こえる。
防災庁設置準備室の看板を手にする石破茂首相(左)と赤沢亮正経済再生担当相=東京都千代田区で2024年11月1日午後2時52分、宮武祐希撮影
◆顔の見える関係大切に
避難などで地元を離れた人も多い。先月1日時点の奥能登の人口は、元日に比べ約4000人減の5万1057人となった。
高齢化と過疎化が地方で同時進行する日本の課題が浮き彫りになった。
高齢化を背景に住宅の耐震化は進まず、人手不足は復旧・復興の足かせとなる。
能登では、災害対応の最前線に立つ自治体職員の多くも被災した。地域再生の担い手確保が課題となっている。
その柱として期待されているのが、特定の地域に関わり続ける「関係人口」の創出と拡大だ。居住こそしていないが、出身者や過去に暮らしていた人などが想定される。県が策定した復興計画でも重要政策に位置づけられた。
首都圏に暮らす奥能登出身者らは8月、被災地の中長期的な課題解決を目指す団体「能登ヨバレ@東京」を創設した。東京都庁職員や建築家、システムエンジニアら約70人が専門性を生かした被災者支援に取り組む。
発起人の一人は、都内のネットメディア運営会社で働く東井孝允(とういたかみつ)さん(42)だ。発災時、出身地の穴水町に帰省中だった。実家は津波で床上浸水し、揺れで大規模半壊した。両親らは仮設住宅で暮らしている。
住民が交流の場としていた商店なども倒壊したため、月1~2回の帰省のたびに、町内で「復興カフェ」を開いている。地区住民の3割、約100人が集う会場は笑顔であふれる。被災者の要望をくみ取り、行政につないでいる。
現地に行かなくても、できることはある。輪島塗に代表される伝統工芸や水産物を購入するなどして地場産業を応援すれば、地域に活力を取り戻す手助けとなる。
東井さんは「観光や親の介護などで行き来する人は多い。顔の見える関係をつなぎとめ、平時から大切にしておけば、きめ細かな支援が可能になる。復興への大きな力になるはずだ」と話す。
◆民間の力生かす対策を
全国の被災地支援に取り組む個人・団体を支えるNPO法人「ETIC.」の山内幸治シニアコーディネーター(48)は「各地で地震や豪雨が相次いでいる。災害への対応が持続可能な事業となる制度を官民でつくる時ではないか」と提言する。
例えば、ボランティアにとっては居住地から被災地までの交通費が負担となる。無償活動を長く続けることには限界があり、資金面でのサポートが重要だ。
日ごろから物流にかかわる企業と行政が連携を深めておけば、食料や仮設トイレなどを円滑に調達することが可能になる。
水道管などの復旧には災害のたびに膨大なコストと時間がかかる。環境対策として導入が進む電気や水の自給自足技術は災害対策にも活用できる。
災害大国である日本では、南海トラフ地震をはじめとする巨大地震がいつ、どこで起きても不思議ではない。地球温暖化の影響で台風の勢力は強まり、集中豪雨も頻発している。
石破茂首相は災害対応の司令塔となる「防災庁」を2026年度に設置する方針だ。事前の備えや避難所運営などで生じている地域格差の是正を目指す。
人命と財産を守り、被災者に寄り添う支援を、能登から全国に広げていくべきだ。そのための基盤を構築するのが政治の責務だ。
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