《社説②》:能登地震と地場産業 伝統と誇り守る支援策を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:能登地震と地場産業 伝統と誇り守る支援策を
各地の風土に根差した地場産業は、住民の生活を支え、地元への誇りと愛着を育んできた。災害からの復興でも鍵を握る。
能登半島地震の発生から2カ月が過ぎた。政府は石川県だけで被害額が9000億円から1兆3000億円に上ると試算している。
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2020年度の県内総生産は約4兆5000億円であり、被害の大きさがうかがわれる。
損壊したインフラや建物は能登に集中している。
代表的工芸品の輪島塗の状況も深刻だ。120以上の工程を職人が担う高度な分業制で知られ、働き手は約1000人に及ぶ輪島市の基幹産業だ。
朝市の大火などで多数の工房や店舗が失われ、職人の多くが避難先で暮らす。地元の漆器商工業協同組合は、「生きるのに必死で、大切な技術が消えてしまう」と危機感を訴える声明を出した。
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国は、全額を負担して仮設工房を4月中に開設する。伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき、生産再開や原材料確保の経費として、1事業者あたり最大1000万円補助することを決めた。
申請には通常、被災状況を示す公的書面や写真が必要だが、被災者が作業場などの確認のために一時帰還するのは容易ではない。国は、実情を踏まえて柔軟な対応に努めてほしい。
対象になるのは、能登では輪島塗と七尾仏壇だけだが、他にも伝統産業は数多くある。平安末期からの歴史を持つ珠洲焼のほか、ろうそくや七輪などだ。
国の対象になっていない産品は県が支援する。生産者の意欲を高めるような内容にすべきだ。
従事者の多い農林水産業の復興も欠かせない。農地や漁港、林道などの被害は、県のまとめで推計約2000億円に達している。
関係者の努力でブランド化されてきた寒ブリや能登牛などの生産を守っていく必要がある。
「杜氏(とうじ)」の4大出身地の一つとされる地域だが、事業再開が見通せない酒蔵も少なくない。伝統的製法で知られる揚げ浜式塩田は、地盤隆起の被害を受けた。
独自の産業は住民にとってかけがえのない文化でもある。その再興を進めることが、地域の活力を取り戻すことにつながるはずだ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年03月02日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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