国連は、欧州と中東で続く「二つの戦争」を止められずにいる。安保理常任理事国のロシアは国連憲章を踏みにじり、イスラエルは自衛権を盾にパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を正当化する。
国家による暴力の犠牲になっているのは市民だ。ウクライナでは民間人1万2000人超が死亡し、ガザの死者約4万5000人の過半は女性と子どもだという。
トランプ氏は「戦争を終わらせる」と豪語する。だが、強者の顔を立てるような決着になれば、将来に禍根を残しかねない。
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パレスチナ自治区ガザ地区中部の避難民向けキャンプで暮らすパレスチナ人父子=2024年12月27日、AP
ウクライナ東・南部でロシアの占領が固定化されれば、独立国としての主権は損なわれたままとなる。ガザ停戦にあたっては人道危機を置き去りにしてはならない。
米欧と中露が勢力圏争いを繰り広げ、新たな国際秩序の青写真は見えない。戦後80年間、平和国家として不戦を貫いてきた日本は秩序作りで役割を果たすべきだ。
ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーは第一次大戦での失地回復などを目指して第二次大戦に突入した。「戦争で失ったものは戦争で取り返す、という『戦間期の思想』だ。それを戦後、持たずに来た日本は21世紀の平和論を世界に発信する必要がある」。昭和史研究家の保阪正康さんは訴える。
いま、日本に求められているのは、「自国第一」が幅を利かせる世界を「人道第一」へと軌道修正する外交努力である。
人道問題に詳しい長(おさ)有紀枝・立教大教授は「日本は『人間の安全保障』を行動指針にすべきだ」と説く。国家よりも人間に焦点を当て、恐怖・欠乏などの脅威からの保護と、尊厳を持って生きられる自由を追求する考え方だ。
安保理が機能不全に陥っている現状を直視し、全加盟国が参加する総会の権限を拡充する必要がある。国連中心主義を掲げてきた日本は国際人道法の規範強化に向け、改革を主導する責任を負う。
◆市民が声を上げる時だ
民主主義の後退も食い止めなければならない。人々の不満や怒りがSNS(ネット交流サービス)で増幅され、社会の分断が進む。注目したいのは市民の活動だ。
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ウクライナ出身のイスラエル人作家、リノール・ゴラーリクさん=提供写真、アンナ・コズロバ氏撮影
東京都練馬区では住民が社会・政治問題などを話し合う「対話的研究会」を月1回開く。草の根での民主主義の実践だ。世話人の経済学者、暉峻淑子(てるおかいつこ)さんは「戦争の反対語は対話」と強調する。
ウクライナ出身のイスラエル人作家、リノール・ゴラーリクさん(49)は露の侵攻後、反戦オンライン誌「抵抗・反体制アートレビュー」(ROAR)を始めた。
プーチン露政権の崩壊を望むが、ソ連解体で喪失感を抱いたロシア人を突き放しはしない。「苦悩が人々を非人間的な行動に追いやる。私たちにできることは、苦しみに耳を傾けることだ」と語る。
09年にイスラエル軍のガザ攻撃で3人の娘を失ったパレスチナ人医師、イゼルディン・アブラエーシュさん(69)は「一人一人の行動を広げ、弱者を強国から守る世界の実現を」と呼びかける。
他者への共感で暴力と憎悪の連鎖を断ち切り、対話を通じて争いを解決する。そんな「人間らしい社会」を再構築できるか。人類に突き付けられた重い問いである。
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