【社説・11.10】:証券マンの強殺未遂事件 個人の犯罪で片付けられぬ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.10】:証券マンの強殺未遂事件 個人の犯罪で片付けられぬ
信頼する証券マンにお金を奪われ、生命の危険にもさらされた恐怖はいかばかりか。
広島市西区の高齢夫婦から現金2600万円を奪った疑いなどで、証券会社最大手、野村証券の社員だった梶原優星容疑者(29)が逮捕された。現金強奪に加え、夫婦に薬物を服用させ、建物に放火した疑いも併せて持たれている。
顧客の資産管理を任されるビジネスは信頼なくして成り立たない。にもかかわらず、社員が顧客のお金を奪うだけでなく生命の危険につながる危害を加えた容疑に言葉を失う。野村証券のみならず、業界全体が顧客管理の在り方を再確認する必要がある。
捜査関係者によると、梶原容疑者は為替相場の変動などを予想して投資する、投機性の高い金融商品に個人的に手を出していたという。奪った現金を「別の顧客から預かった投資金で損失を出し、その穴埋めに充てた」などと話しているとみられる。金策に困った挙げ句に、顧客だった夫婦の資産に目を付けた構図が浮かび上がっている。
投資話を持ちかけて現金を用意させ、当日は夫婦宅で食事会の約束をして差し入れ持参で訪問していたという情報もある。警察が計画的な犯行とみているのもうなずける。動機や背景をしっかりと明らかにしてもらいたい。
ただ、梶原容疑者個人の不届きな犯罪として片付けるわけにはいくまい。首をかしげたくなるのが、野村証券が「当社元社員の逮捕について」という表題で6日に発表した広報資料である。
梶原容疑者の逮捕は懲戒解雇の後で、確かに「元社員」であることには違いない。だが、犯行時はれっきとした野村証券の社員であり、職務上の地位を利用した犯罪というのは紛れもない事実である。使用者責任も当然問われるはずなのに、会社としての責任を明示し、謝罪したように感じられないのは残念だ。
資料には、社員が富裕層の顧客宅を訪問する際の事前承認ルールの導入や、社員行動モニタリングの強化、不正検知のための休暇制度導入など再発防止策が併せて示されてはいる。しかし、どんなに親しくなっても、証券マンを家の中に招き入れることが危険である現実が目の当たりになった影響は計り知れない。
富裕層を対象にしたビジネスは、銀行や百貨店の外商担当なども重視する利益率の高い部門である。一方で、高齢の富裕層は最近、とりわけ闇バイト犯罪の矛先になっている感がある。
今回の事件は証券業界だけでなく、銀行や百貨店などにも多大な影響をもたらすことになる。野村証券はその深刻さをもっと重く見るべきではないのか。防止策を並べるだけで顧客が安心し、会社が信頼を取り戻せると考えているのならば甘過ぎよう。
野村証券は国債の先物取引で価格を不正に変動させた相場操縦で、金融庁から2千万円を超す課徴金納付を命じられたことも明らかになった。
問われているのは一社員の倫理観の欠如ではない。社としての姿勢である。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月10日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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