【社説・11.06】:酒造り無形遺産/世界に広めたい伝統文化
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.06】:酒造り無形遺産/世界に広めたい伝統文化
日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に申請していた日本酒や本格焼酎などの「伝統的酒造り」が、同機関の無形文化遺産に登録される見通しとなった。12月2日からパラグアイで開かれるユネスコ政府間委員会で正式決定される。
国内には古くからの酒どころが各地にある。ユネスコの評価機関は酒造の知識や技術が「個人、地域、国の三つのレベルで伝承されている」と評した。日本の風土や社会と深く結びついた「酒」の伝統文化が国際的に認められた意義は大きい。これを世界に広め、地場産業の振興などにつなげる契機にしてほしい。
無形文化遺産は伝統芸能や工芸技術、祭礼行事などが対象で、2006年発効の保護条約に基づき登録される。国内の登録は歌舞伎や能楽、和食などに続いて23件目となり、各国の中でも多い。日本の芸能や文化の豊かさを示している。
伝統的な技術で造られる酒には、醸造酒の日本酒、蒸留酒の本格焼酎や沖縄の泡盛のほか、もち米と焼酎を使った本みりんなどがある。日本酒だけをみても国内各地にさまざまな地酒があり、極めて多様だ。
その中で兵庫県は日本酒生産量の3割を占める。神戸と西宮にまたがる全国随一の灘五郷をはじめ、伊丹や播磨、淡路などの産地がある。歴史は古く、奈良時代の「播磨国風土記」にも酒に関する記述がある。丹波や但馬の杜氏(とうじ)が技を磨き、酒造り唄(うた)を伝承してきた。酒米の王者・山田錦も北播磨の試験場で生まれた。
こうした日本酒との深いゆかりがある兵庫にとって、今回の登録は非常に喜ばしい。国内外に酒どころとしての発信を強め、地域ブランドを高める取り組みに期待したい。
伝統的酒造りは日本古来の高度な技術に支えられてきた。カビの一種であるこうじ菌を使い、コメなどの原料を発酵させる。複数の発酵を同じ容器の中で進める製法は、世界的にみても珍しいという。
戦前の沖縄にあった泡盛の酒造所は、激しい地上戦で壊滅状態になった。しかし焼け跡のむしろから奇跡的に見つかった黒こうじ菌などで戦後に復興された。酒造文化が容易に継承されてきたものではないという点も忘れてはならない。
懸念されるのは、酒造りに関わる人たちの高齢化が急速に進んでいる問題だ。酒米の生産者や酒造りに使う木製品の業者も同様の傾向で、後継者不足は深刻化している。
このままでは、古代から連綿と続いてきた日本独自の無形文化が先細りしかねない。政府や自治体は酒造りを産業としてだけでなく、後世に引き継ぐべき伝統と位置付け、有効な支援策を進めてもらいたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月06日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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