《社説①・12.06》:酒造の遺産登録 文化を醸す拠点として
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.06》:酒造の遺産登録 文化を醸す拠点として
日本酒や焼酎などの「伝統的酒造り」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。
酒蔵が78を数え、新潟県に次いで多い信州にとっても朗報だ。酒造りの多面的な価値を共有したい。
カビの一種こうじ菌を使い、地元の水とともに米や麦などを発酵させて造る酒には、土地ごとの味わいがある。気候、風土に応じて杜氏(とうじ)や蔵人らが磨いてきた技術、経験、知識のたまものだ。
人々の暮らしと深くかかわり、地域文化を育んでもきた。季節の祭事や婚礼といった行事に酒はつきもので、共同体のまとまりに一役買ってきた。
原料となる穀物を供給する農業と、それによって維持される田畑や水環境が織りなす景観も、酒造りが取り持ってきた大切な一面といえるだろう。
そうしたさまざまな価値を、ユネスコは「伝統的酒造りはコミュニティーにとって強い文化的意味を持つ」と評価した。
産業としての酒造りを取り巻く環境は大きく変わりつつある。
健康志向や酒の好みの多様化で国内消費が縮小し、昨年度の日本酒の国内出荷量は1970年代の4分の1以下に落ち込んでいる。杜氏の数も昨年は全国で700人余と、60年代半ばの5分の1ほどに減っている。
一方で国外では、2013年に無形文化遺産になった「和食」とともに人気が高まっている。
各蔵は販路を海外に見いだし、輸出を増やそうとしている。洗米などの一部工程が体験できる酒造りツアーもインバウンド(訪日客)に好評という。登録でこうした動きにも弾みがつくだろう。
地域の“文化拠点”として、酒造りや酒蔵が新たに担う公共的役割にも注目したい。
県内でも、市民参加で酒米作りに取り組み、荒廃しがちな棚田の保全につなげる試みが広がる。古くからの重厚な建物が多い酒蔵で演奏会を開いたり、地産地消がテーマの街歩きを企画したりといった取り組みも各地で盛んだ。
酒蔵と地域とがかかわり合い、相互に「環境の持続可能性に貢献する」ことは、ユネスコも期待を寄せている点である。
気がかりなのは温暖化だ。必要な米の収量や品質に影響が出かねず、発酵の温度管理も難しくなってきているという。隣の岐阜県では北海道に移転した酒蔵もある。今回の登録は、地域を守っていくために何ができるのかも、私たちに問いかけている。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月06日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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