【主張①・11.18】:危険運転致死傷罪 遺族感情に応える改正を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【主張①・11.18】:危険運転致死傷罪 遺族感情に応える改正を
法務省の検討会が、悪質事故に適用される危険運転致死傷罪の要件見直しを提案する報告書案をまとめた。曖昧と批判があった高速度と飲酒について、一定の数値基準を設定するよう求めている。
妥当な提案だ。法改正は悪質運転で大切な人を奪われた遺族が強く求めていた。遺族の怒りは国民の思いでもある。国民感情との乖離(かいり)を埋めるべく、法務省は同罪の適用要件を明確化してほしい。
法務省
同罪は、東名高速道で飲酒運転のトラックが女児2人を死亡させた事故をきっかけに平成13年に創設された。法定刑の上限は20年で、過失運転罪の上限7年とは大きな開きがある。
現行法は高速度の対象を「進行の制御が困難」、飲酒を「正常な運転が困難な状態」とし、具体的な速度や数値を定めていない。報告書案は一定の速度以上を高速度の対象とし、「法定速度の2倍や1・5倍」とする意見もあった。
令和3年2月、大分市内の県道交差点を右折する会社員の車に、当時19歳の少年が運転する直進車が衝突し、会社員は死亡した。直進車は法定速度の3倍を超える194キロで走行していたが、大分地検は「直線道路で走行を制御できていた」として過失運転致死罪を選択した。
そもそも制御できなかったから、事故は起きたのだ。納得できない遺族は署名を集めて訴因変更を求めた。補充捜査を経て訴因は危険運転致死罪に変更されたが、なお争われている。
遺族の声による訴因変更こそが要件の曖昧さを象徴する。一定の数値設定は必要である。
ただし、要件に定めた速度や数値が厳罰逃れの指標となってはならない。
例えば法定速度の2倍を高速度と定め、60キロ道路で120キロ以上のスピードで事故を起こせば「危険運転」となるが、これ以下の速度であっても「ながら運転」や飲酒などの複合要因で悪質な運転と判断されるケースはあり得る。数値を唯一の基準とすべきではない。
遺族らの強い処罰感情は、ただ怒りに任せたものではない。同じ不幸を経験する人がなくなる よう、事故そのものを恨み、撲滅を目指すものだ。
厳罰化や処罰対象の明確化が悲惨な事故の減少に寄与することは、飲酒運転の取り締まりが証明している。
元稿:産経新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【主張】 2024年11月18日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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