安倍首相の成長戦略第二段のうち、農業について、全国紙の「評価」を踏まえ記事を書くことにしてみました。愛国者の邪論の地域でも、今年は、また田植えをしていない田んぼが増えてしまいました。毎年毎年耕作放棄地が増えていますが、道の駅や農協の経営するスーパーでは「地産地消」が目だってきています。
しかし、日本の第一次産業である農業・漁業の10年後を考えると、背筋の寒くなる思いが沸き起こってきます。消費者と生産者の個人の努力のレベルを超えた問題と言えます。誰もが安心して安全な食糧を食べることができるかどうか、生産者の農業労働力に見合う農業生産品を販売できるかどうか、若者が胸を張って農業・漁業後継者として、日本の第一次産業を継承していけるかどうか、国をあげて取り組まなければならないように思います。
その点で地方自治体が、急いで農協や農業生産者や販売者のNPOなどと共同で、さらには消費者や農業・漁業経営者との共同の取り組みを具体化していく必要があるように思います。その際の国や都道府県の財政的支援をどうするか、これも大きな課題のような気がします。
そこで、安倍首相の以下の演説に即して検討してみました。ポイントは以下のとおりです。
「成長戦略第2弾スピーチ」(日本アカデメイア)安倍総理 平成25年5月17日
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/0517speech.html
1.「やっぱり『本物』は、国境を越えて、伝わるんですね。 『本物』の寿司のシャリは、日本のコメでなければなりません。寿司にぴったりなのは、日本酒です。すべてがつながっていくんです。『日本食』は、日本が生み出した『システム』なんですね」だそうです。
呆れます。コメの輸入「自由化」推進で日本のコメづくりと農業を破壊してきたのは、自民党ではなかったのか、全く反省していません。反省しない者が、何を言うか!です。
2.日本の農業輸出額4000億円を「必ずや、輸出を倍増し、1兆円規模にすることは十分に可能」で、その理由は、「牛肉や果物は、海外での高い評価を考えれば、まだまだ増えるはず」「東南アジアやEUなどで需要を開拓する余地がまだまだあ」る。「世界の比較的裕福な地域に輸出が拡大していくことは間違い」ないと、安倍政権の「期待」「願望」からだそうです。
3.ではどうやって海外で売っていくか、です。それは、「新たなビジネスモデルを構築しようと取り組む生産者に対して、公的ファンドからの出融資による経営支援」「儲かる農業開拓ファンド」を行い、「現在1兆円の「六次産業化」市場を、10年間で10兆円に拡大」するというもので、これまでの日本の農業の根本的転換を狙っているのです。農業経営と販売に大企業の参入を考えているのです。
口では「農産物をそのまま売るんじゃなくて、一手間かけるだけで付加価値が増すんですね。 消費者と直接つながってしまえば、流通マージンがなくなるだけではなく、消費者のニーズをくみ上げて、より高く売れる商品を開発すること」「観光業や医療・福祉産業など、さまざまな産業分野とも連携すること」などと、これまでの農業・業業を継承するかのように言っているのは、真っ赤なウソです。
そもそも、日本の「民間」=大企業は、儲けのために日本からどんどん出て行っているではありませんか!原発の再稼動をしないと海外に出て行くなどと、ウソと脅しをしているではありませんか!そんな企業が農業や漁業を守るためになどとして、責任ある行動を取るでしょうか?
ここでも、安倍首相の根拠は、これまでの政策の破綻の分析・責任については全く反省はしていません。そればかりか、儲からなければ、工場をさっさと閉鎖してしまうなど、破綻した大企業支援型の参入の延長線上でしか考えていません。
4.「この20年間で、農業生産額が、14兆円から10兆円へ減少する中で、生産農業所得は、6兆円から3兆円へと半減」「基幹的農業従事者の平均年齢は、現在、66歳です。20年間で、10歳ほど上がりました。これは、若者たちが、新たに農業に従事しなくなった」「耕作放棄地は、この20年間で2倍=滋賀県全体と同じ規模」となったことの政策破綻の責任と教訓は微塵もありません。
これで「一見すれば『ピンチ』「」ですが、意欲ある若者にバトンタッチできれば、構造改革に一気にドライブできる『チャンス』になる」などと呑気なことを言っているのです。
5.私は、農業の構造改革(農地の集積)を、今度こそ確実にやり遂げます。…このため、都道府県段階で、農地の中間的な受け皿機関(「農地集積バンク」)を創設」し…この公的な機構が、さまざまな農地所有者から、農地を借り受け…機構が必要な基盤整備なども行った上で、民間企業も含めて農業への意欲あふれる『担い手』に対して、まとまった形で農地を貸し付けるスキームを構築し…さらに、耕作放棄地についても、意欲あふれる『担い手』による農地利用を促すため、必要な法的手続きを思い切って簡素化」するというもので、「民間企業を含めて」の実態を隠して大風呂敷を広げているのです。
6.「ここで正式に、「農業・農村の所得倍増目標」を掲げ」「今後10年間で、六次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を策定し、実行に移して」いくと、「池田総理のもとで策定された、かつての所得倍増計画」のパクリをやろうとしているのです。
7.池田首相の高度経済成長で輸出産業優先・農業破壊が進行したことは歴史の事実です。その後のリゾート法の失敗、大型店舗の導入による街づくりの失、シャッター通りなど、その失敗の分析と反省は、ここでもありません。しかし、住民無視の視点は同じです。
8.最後に安倍首相は、またしても無内容の「美辞麗句」を語り、ゴマカスのです。
「農業の素晴らしさは、成長産業というだけにはとどまりません。棚田をはじめ中山間地域の農業は、田んぼの水をたたえることで、下流の洪水被害の防止など、多面的な機能を果たしており、単なる生産面での経済性だけで断じることはできない大きな価値」があるなどとしていますが、誰が美しい日本の農村風景を、農業共同体を、日本の伝統文化を破壊してきたか、全く他人事、反省がありません。
これに対して、全国紙はどのように評価したのでしょうか?以下ポイントをまとめてみます。
1.これまでの農業問題の根本的な誤りの総括と安倍首相の企業参入についての評価は避けています。
2.日本的小規模経営と日本の自然環境を踏まえた農業経営についての評価は避けています。
3.TPP参加を促している朝日は、ピンボケ社説です。「問題点」の「羅列」で焦点が定まっていません。
4.読売と日経は、TPP参加に向けた布石として位置づけています。
5.その中で比較的まともな東京でも、若者や女性の参入をどうするか、具体的に語ってはいません。
朝日 農地の集約/構造問題にこそメスを 2013/5/13 4:00
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2?
ただ、これで農地の集約が本当に進むのか。基盤整備に名を借りた公共事業を増やすだけに終わらないか。心配である。 コメでは、経営規模の拡大が長年の課題だ。成果があがっていないのはなぜなのか…ほぼ市町村ごとに置かれている農業委員会のあり方だ。農地の貸し借りや売買に大きな権限を持つが、恣意(しい)的な農地転用など、不透明な運営が批判されてきた。どこをどう改めていくのか。 農家に対する経営所得安定対策(旧戸別所得補償制度)も見直しが欠かせない。…生産コストを下げるには、やる気のある農家や企業が、創意工夫を重ねながら自由に生産できる環境が不可欠だ。コメ消費の低迷にあわせて作付面積を抑える生産調整(減反)の見直し・廃止も避けられない。 農水省が、こうした構造問題にメスを入れないまま、「攻めの農林水産業」を掲げても、空虚に響くだけだ。参院選での農業票を意識する自民党に配慮しているのなら、本気度を疑われても仕方あるまい。 日本が交渉に加わる環太平洋経済連携協定(TPP)では、農業、とりわけ高関税で守ってきた米作への影響が必至だ。一定の対策と、それに伴う予算が必要になるだろう。(引用ここまで)
読売 農業の成長戦略/「所得倍増」へ農地集積を急げ 2013/5/18 2:00
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20130517-OYT1T01502.htm
一層の市場開放に備えて、日本農業をどう再生するか。小規模農家から生産性の高い大規模営農へ、転換を促す施策の実効性が問われよう。 安倍首相は、成長戦略第2弾の柱として「攻めの農業」の実現を打ち出した。「農業の構造改革を今度こそ確実にやり遂げる。農地の集積なくして、生産性向上はない」と述べた。改革の方向性は間違っていない。 目玉となるのは、首相が「農地集積バンク」と呼んだ新たな農地仲介制度である。農林水産省が早期導入を目指している。 現在、農地売買などを行っている都道府県の農業公社に強い権限を与え、農地を管理する機構に衣替えする。機構が小規模農家などから土地をいったん借り上げ、大規模化を目指す農家や農業法人に橋渡しする仕組みだ。…借り手を確保するには、企業などの新規参入を後押しする政策が不可欠だ。集約しやすい優良農地を仲介することも求められる。 農地の賃貸や売買の許可権限を持つ農業委員会を見直さないと、農地集積の支障となろう。 農業を成長戦略と位置付ける以上、農水省はメリハリの利いた制度設計を行い、農協などの既得権に切り込んでもらいたい。…自民党がコメ農家などを対象とする所得補償制度を拡充し、農地を維持している全農家に補助金を支給する制度を検討していることも問題である。 零細農家でも補助金をもらえるなら、農地の出し手は増えまい。農地集約の方針に妨げとなる政策は再考すべきではないか。 農地の規模拡大は長年実現できなかった。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加をにらみ、改革を加速しなければならない。(引用ここまで)
日経 本丸に踏み込まない成長戦略では困る 2013/5/18 4:00
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO55176840Y3A510C1EA1000/
キーワードは「世界で勝つ」だという。 しかし聞こえのいいキャッチフレーズや数値目標が先に立ち、企業や個人の活力を真に引き出す政策は乏しいといわざるを得ない。問題意識は正しくても、本丸に踏み込めない成長戦略では困る。…横並びの保護政策を続けるのではなく、民間企業が参入し、自由に競争できる条件を整えるのが政府の役割だろう。今夏の参院選を意識して農家や農業団体の反発を受けないような政策だけ並べるのでは困る。 政府・日銀は財政出動と金融緩和で景気回復の端緒をつかんだ。だがカンフル剤をいつまでも打ち続けることはできない。日本経済の本格再生につながる中身の濃い成長戦略が必要である。 新たな市場や技術を生むのは民間の創意工夫だ。安倍政権はその環境づくりに徹した方がいい。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加は評価したいが、細かな措置を散発的に打ち出しても企業や個人のやる気は引き出せない。(引用ここまで)
中日/東京 成長戦略第2弾/危うくないか所得倍増 2013/5/18 8:00
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013051802000135.html
今、真摯に向き合うべきは農業活性化を中心に据えた成長戦略第二弾の内容ではないか。農地集約や農産品の輸出拡大を着実に進め、高齢化が著しい農業に多くの若者を呼び込む政策が何より欠かせない。…日本農業は自壊の道をひた走っているようにさえ映る。 首相は今夏の参院選を見据え、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に対する農業関係者の反発を和らげようと所得倍増を打ち出したのだろうが、夢をばらまくだけでは強い農業は望めない。食べていける農業の姿を、女性も呼び込める政策を丁寧に示すべきだ。(引用ここまで)
こうした社説の「評価」に対して、安倍政権の農業政策と真逆の政策を発表しているのは共産党しかありません。その共産党にしても、TPP参加反対は、それなりに伝わってきますが、日本の農業をどのように再生していくか、そのメッセージは極めて弱いと言えます。愛国者の邪論の不勉強かも知れませんが・・・。
農民と消費者の一見すると対立しているかのような要求が、実は一致できるという点を強調することで、実はTPP参加を容認する消費者と農民との連帯が進むのではないか、更に言えば、マスコミを使った消費者と農民の分断に楔を売り込むことになるのではないか?
以下の政策が、先の総選挙でどのように受け入れられたか、或いは受け入れられなかったのか、その分析はどうか、そのことが明らかにされないままでは、参議院選挙でも同じ結果になることは明らかです。政策・公約とはそういうものだからです。これは民主党も、自民党も同じです。
2012年総選挙各分野政策 3、農林漁業
農林漁業の再生を国づくりの柱にすえ、国民の食料と豊かな環境を守り、持続可能な社会をめざします(2012年11月)