その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

塩野 七生 『ローマ人の物語〈27〉すべての道はローマに通ず〈上〉』 (新潮文庫)

2011-06-01 22:51:26 | 
 筆者自身が「はじめに」で触れているように、この巻は、これまでのそして今後のどの巻とも異なっている。この巻だけは「ローマ人」の物語ではなく、ローマ人が築いた「インフラストラクチャー」が主人公だからである。そのためか、わざわざ、筆者は「読むのも困難であるはずで、・・・手に汗ににぎるたぐいの快感は、・・・期待しないでほしい」(p26)とはじめにで述べている。しかし、この前書きは一切不要であると思った。自分のとっては、ある意味、今まで読んだどの巻よりも興味深いものだった。

 「ローマ人の考えていたインフラには、街道、橋、港、神殿、公会堂、広場、劇場、円形闘技場、競技場、公共浴場、水道等のすべてがはいってくる。・・・ソフトなインフラとなると、安全保障、治安、税制に加え、医療、教育、郵便、通貨のシステムまでも入ってくるのだ」(p21)。今の我々の生活の基盤になっているインフラの原型が殆どローマ人の作った仕組みに拠っているというのは驚嘆すべきことであると思う。本巻は、その彼らがどう考え、どうやってこれらのインフラを整備していったのかが語られる。面白くないわけがない。

 上巻の本書はそのインフラの中でも、街道、橋、そしてそれを利用した人々に焦点をあてを扱っている。道路自体はローマ人の発明ではないが、それをネットワーク化したのはローマ人。「街道の弟」として街道との連関と調和の関係を持ちながら、耐久性、機能性、美観を考えて作られた橋。そして、その街道、橋を使っていた軍団は、兵站で勝つとまで言われ、一般人はモノ・ヒトの流通を促進し、そして郵便は帝国中に情報を流通させた。今の世の中ではあって当たり前になっているインフラの持つ意味あいを改めて考えることができる。

 加えて、本書の楽しさは、他巻と違ってふんだんにローマ遺跡の写真が掲載されていること。これを見れば、ローマを訪れ遺跡を廻りたくなること間違いなし。ローマを訪れる前には、本書に目を通すことをお勧めしたい。
コメント (2)
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