その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

百田 尚樹 『永遠の0 (ゼロ)』

2011-06-18 21:42:08 | 
同僚のお薦め本として、借りて読んだ。575ページの厚めの文庫本だが、読み始めたら止まらない。

成人した姉と弟が母の依頼により、特攻隊で無くなった祖父について調べていくうちに、これまで明らかにされていなかった、祖父の家族への愛、信念、行動が浮かび上がるという展開。

海軍の同僚からのヒヤリングにより、次々と祖父像が浮かび上がるストーリー展開、海軍有数のパイロットでありながら徹底的に生き抜くことにこだわった祖父、調査のプロセスを通じて自己発見、成長していく姉弟、そして明らかになる当時の海軍の無謀さ、これらの要素が噛み合い、面白く、感動し、勉強にもなるという点で強く私も薦めたい一冊だ。

家族への愛という個人の思いと組織の論理との葛藤を、当時の関係者の証言で浮かぶ上がらせる手法は、浅田次郎の「壬生義士伝」と似ている。ちょっと、話が出来すぎ感はあるが、浅田本同様、この本も涙なしでは読めない。

それにしても、当時の海軍(きっと海軍だけの話ではないのだろうが)というのはどうしようもない組織だということが良く解る。日本軍のダメさ加減は、太平洋戦史で歴史としてはそれないりに知っているつもりだが、小説とはいえ、兵士の視点で戦争を見るのは、迫力が違うと感じた。

しかし、同様に今の震災対応、原子力事故対応をみていると果たして日本のリーダー達は、過去からどれだけ学んでいるのかと、首を傾げたくなる。 あまり日本の組織の本質はかわっていないのではないか?
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ベルリン・ハンブルグ訪問記 (その4)

2011-06-18 00:41:53 | 旅行 海外
 今回のハンブルグ訪問の一番の目玉は、ハンブルグから1時間ちょっとで行けるナチス時代のノイエンガンメ強制収容所を訪ねることでした。我ながらもの好きと思いますが、4月にアウシュビッツを訪れて、その生の歴史遺産が放つ強い力に魅せられ、別の強制収容所も見てみたいと思っていました。

 ハンブルグの中央駅から電車(Sバーンの21番)で20分程乗り、Bergedorf駅で下車、そこからバスで更に40分程乗ります。このバスルートは、予期せぬ美しい田園風景でした。

 その田園風景のど真ん中に、ノイエンガンメ強制収容所があります。ノイエンガンメ強制収容所はアウシュビッツのような絶滅収容所とは異なり、ドイツ軍占領地域からの捕虜、政治犯、思想犯などを収容し、強制労働に駆り立てていた収容所です。ガイドブックによると、1938年に創設され、男女合計21万名もの人が収容されました。そして、42900名もの人がここで亡くなっています。

(収容所入口とその反対側)
 

 戦後は2006年まで収容所の跡地の一部が刑務所として使われていたということもあり、アウシュビッツのように当時のものがそのまま残っているというわけではありません。それでも、博物館の展示史料、ブロック製造に使われていた工場、記念碑などを訪ね歩くのは、当時を偲ばせるに十分のものがあります。

(収容所バラックの跡地)


(収容所の中央にある博物館)
 

(収容者が記憶をもとに描いた当時の様子)
  

(ブロック工場)
  

 この旧収容所跡地を旧収容所としてこのように公開するのには、ハンブルグでも多くの議論があったようです。刑務所の隣接地に細々と記念碑を建てることから始まって、今のような形で一般公開できるようになったのは2007年から。歴史を冷静に振り返ることができるようになるには、それだけの時間がかかったということでしょうか。

(亡くなった人の碑)


(慰霊碑)
 

(収容者を運んだ貨物)


 先月のアウシュビッツの訪問の時もそうでしたが、この日も快晴。ピクニックに来たと言っていいぐらいの穏やかでのんびりした風景の中に身を置くと、つい70年前にこの地で悲惨なことが行われていたとは信じがたいものがありました。敷地はとても広いので、ブラブラ見ているだけであっという間に3時間たってしまいました。アウシュビッツと違って、見学者も高校生の社会科見学と思われる一団が賑やかに見学しているほかは、一般の見学客はたまに見かける程度です。そんな中、結局、4時間近く見学し、ハンブルグに戻りました。



 2011年5月30日 訪問

※ノイエンガンメ強制収容所訪問にあたっては、SATO TOMOKOさんのブログがとっても参考になりました。この場を借りて、お礼申し上げます。いろんな収容所巡りをされています。(→こちら
コメント (6)
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