その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

竹内 健『世界で勝負する仕事術  最先端ITに挑むエンジニアの激走記』 (幻冬舎新書)

2012-06-04 02:13:08 | 
 昔ビジネスマン、今大学教授によるビジネス体験記。内容はサブタイトル「最先端ITに挑むエンジニアの劇走記」そのもので、メインタイトルである仕事術についての記述は無いに等しいのは期待外れだったが、手軽に楽しみながら読める。

 フラッシュメモリーの分野で世界の市場を相手にしのぎを削ってきた筆者の体験は、グローバルマーケットで勝ち抜くということがどういうことなのかが良く分かり興味深い。日本メーカーの良さと限界、「なぜ世界一を狙わなければいけないのか(なぜ2位ではいけないのか)?」については特に首肯できる。

 一方で、私の最近の経験と合わせて感じたのは、日本では、こうした業界のトップを走るような開発者やエンジニアは何故か、大学(アカデミー)を目指し、起業には至らないのか?ということである。筆者は本書でその点について自らを振り返り、「性格的に自分は起業家向きではありません」と書いている。「フラッシュメモリーの分野では世界のだれにも負けたくないという気持ちは強いのですが、1番になれれば良くて、そこで大きな報酬を得たいとは思わないのです。(改段)むしろ、お金がほしいと思うと判断が曲がるので、あまりお金はモチベーションにしない方が良いと思って生きてきました。」(p99-100)。

 最近、上司の紹介で、第一人者として産業を引っ張っていると言っても良い弊社の開発者とお話する機会があったのだが、その方も「今はやりたいことをやらせてもらっているから当分会社に居るつもりだが、まあ遅かれ、速かれ、大学に行くことになるでしょうね~」と仰っていた。私には、それだけの技術力をもっていると自他ともに認めているのなら、何故、社を離れるなら起業して市場の中で勝負しないのか、私には残念な発言だったのだが、同じような思いがあるのかもしれない。

 モチベーションの源泉のほかにも、敗者に対するセフティーネット、起業(独立)に対する社会的評価など、日本におけるベンチャーに対する環境は、米国に較べると気が遠くなるような差がある。映画”Facebook"を見れば、日本との差は歴然だ。本書とは直接関係があるわけではないのだが、本書を読んで、(決して大学に行くのが否定するわけではないのだが)こんな優秀な人はもっと市場の中でダイナミックに活躍できないものか、その方が日本の活性化という意味ではいいのでは、という印象を持ってしまった。

コメント (4)
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