その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

八木 洋介, 金井 壽宏 『戦略人事のビジョン 制度で縛るな、ストーリーを語れ』 (光文社新書)

2012-06-24 22:46:42 | 
 最近、人事・リーダーシップ・キャリア関連の本を立て続けに3冊読んだので、簡単に1冊ずつ紹介します。まずは、長年日本GEで人事の責任者を務めた八木氏と、日本におけるリーダーシップ論の代表的学者である金井先生による『戦略人事のビジョン』。

 八木氏は日本の製造業の名門企業NKKでの人事と外資系の中でも明確な人事戦略を持つことで有名なGEの人事の双方を経験しています。私も10年以上前に一度、八木氏の講演に参加する機会がありました。経験から導き出された氏の見識、持論は、どっしりと地に着いた迫力があります。金井先生は章ごとにアカデミックな立場から、八木氏の議論を総括していますが、正直(私は金井先生の著作は好きなのですが)ここでは不要なぐらい、八木氏の主張は明確で、説得力のあるものです。

以下、本書から部分抜粋
・多くの日本企業の人事部門は「継続性のマネジメント」(企業における歴史的継続性を重視するマネジメント)に縛られている(年功序列、職能資格・・・)
・戦略人事とは、会社の戦略(「こうやって勝つ」というストーリー)をベースに、社員とのコミュニケーションを図り、そのやる気を最大化し、企業の生産性を向上させること。
・人事の仕事に携わる人は、「言葉の魔術師」たるべき。「心に刺さる言葉」を使う。
・人事担当者としてのリーダーシップは、権限で無く見識をもち、正しいことを正しく主張すること。
・GEの特徴:「勝ちの定義」が明確。本音を封印し、建前で働く。「コミット・アンド・デリバー」(「できませんでした」は通らない)、オリンピックで金メダルを狙うアスリート集団(市民ランナーがやりたいならこの会社は向きませんよ)、最後は雇用に手をつける。
・真のグローバル企業とは、世界中でビジネスを展開しているだけでなく、戦略にのっとった「その会社らしさ」を確立しており、世界中で「その会社らしい人材」が働いている企業。
・組織開発ができなければ人事のプロではない
・「チェンジを起こしたかったら、賛成者を増やすより、反対者を減らせ」(シャイン)
・リーダーの出現率は少ないから、育てなくてはいけない。リーダーはリーダーにしか育てられない。
・日本人のリーダーシップに欠けているもの:自分を突き動かすもの、いわばエンジンが欠けている。そんな人にリーダーシップ論を教えても、型、知識として吸収されてしまう。
・日本人のリーダーシップ育成→「自分の軸」(自分の言動の中核をなす価値観、こだわり。哲学)を明確化する。
・人が最も成長するのは失敗したとき。学ぶ努力、考える努力、行動に移す努力
・人事のプロに求められる資質: 情熱、ビジネス知ること、人間についてのプロ、人の心を揺り動かせる

 GE的な弱肉強食の世界を前提とした人事に違和感を覚える読者もいるかもしれません。でも、違和感があろうとなかろうと、本書は、今日本企業の人事が直面している課題とその課題に対する基本スタンスを示してくれています。

 人事にかかわる人はもちろん、かかわらない人にもお勧めです。
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ロイヤル・オペラ・ハウス/ ラ・ボエーム

2012-06-24 00:24:40 | オペラ、バレエ (in 欧州)
 ゲオルギューとアラーニャというスター夫婦の共演による豪華版ラボエーム。さすがに舞台が華やかで、なるほどスターとはこういうものかと納得の公演だった。

 2人は舞台映えだけでなく、もちろんその実力も見せつけた。アラーニャのテノールは艶があり、かつ声量も群を抜いている。この夜も聴いていて惚れ惚れ声だった。演技もちょっとロドルフォ役には色男すぎるのではと思うところもあるが、御愛嬌だろう。ゲオルギューのミミは期待したほどの声量が無く本調子でなかった気がしたが、声の美しさや、細かい表情が感じられる歌唱表現が絶妙で、芸の細かさを感じる。そしてこのコンビが演じるミミとロドルフォの愛は、演技とは思えない距離感の近さと気持ちを感じるものだった。夫婦なんだから当たり前だろうと言ってしまうと、身も蓋もないのだが、特に3幕、4幕の二人の掛け合いでは、2人の強い投入感が見ている者を舞台に強力に引き込むものだった。

 この2人がずば抜けていたのだが、回りの歌手陣やオケも良かった。ムゼッタ役のNuccia Focileの声はキンキンしていて好みではなかったが、演技としては悪くなかったし、マルチェッロ役のバリトンは滑らかで良かった。指揮は病欠のMauizo Beniniの代役でJacques Lacombeという人が振ったが、表情豊かな音楽で、オーケストラのアンサンブルも美しかったので満足。

 が、・・・・・・正直に書く。ゲオルギューの歌唱や演技はレベルの高く、良かったと思った一方で、彼女のミミは全く私の好みでは無かった。可憐なミミではなく、熟女ミミだったからである。40代も後半に入ったゲオルギューだから仕方ないとも思うのだが、昨年の「ファウスト」ではあんなに可憐なマルグリートを演じていたのに、何故、今日は違うのか?彼女の派手な顔立ちに加えて、仕草、表情が、そう感じさせたのであろうが、1幕の2人が恋に陥る場面は、2人の若者が恋に目覚めたというよりも、不倫に目覚めた中年男女に見えてしまった。まあ、自分の勝手なミミのイメージを押しつけているだけなのだが・・・

 カーテンコールは凄い拍手だった。ゲオルギューには花束が沢山投げ込まれ、ゲオルギューもとても嬉しそうだった。確かに舞台としては華のある、レヴェルの高いものだったと思う。でも、それが必ずしも個人の満足度とは合致しない時もある。オペラとは難しいものだ。








La bohème
Saturday 23 June 2012, 7.00pm

Main Stage

Credits
Director John Copley
Designs Julia Trevelyan Oman
Lighting design John Charlton

Performers
Conductor Jacques Lacombe
Mimì Angela Gheorghiu
Rodolfo Roberto Alagna
Musetta Nuccia Focile
Marcello George Petean
Colline Yuri Vorobiev
Schaunard Thomas Oliemans
Benoît Jeremy White
Alcindoro Donald Maxwell
Chorus Royal Opera Chorus
Orchestra Orchestra of the Royal Opera House
コメント (3)
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