その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

成田 龍一 『近現代日本史と歴史学 - 書き替えられてきた過去』  (中公新書)

2012-06-10 22:52:14 | 
  日本史世界史を問わず、近現代史は今と直結しているという意味で個人的に好きな分野なので、学生の時から時々、歴史書を手に取っています。しかし多くの場合は、筆者の歴史叙述を追って、論理展開や因果関係を確認しておしまいになる場合が殆どで、筆者の問題意識や立ち位置、他の同時代、同テーマを扱った書籍との違い、歴史叙述における論点などにまで立ち入って読むことができることは殆どありません。本書はこんな私にもう少し深く歴史について学ぶことを教えてくれる、私にぴったりの本でした。

 本書は近現代における日本史について、歴史学がどのような出来事(史実)を選び、どのような意味を与えてきたのか、その意味付けには研究の成果だけでなく、世の中の変化がどう影響を与えてきたのかについて、説明してくれています。明治維新から戦後社会までの大きなトピックス(例えば、明治維新の位置づけ、自由民権運動の評価、大正デモクラシーの評価、アジア・太平洋戦争論など)を捉えて、歴史学研究の大きな流れであった1)社会経済史をベースにした見方、2)「民衆」の観点をいれた見方、3)社会史研究を取り入れた見方の3つが、順番に重層的に形成されてきた様子、すなわち「歴史」の歴史を叙述しています。

 読み進めるごとに、自分の頭の中で無秩序に散らかっていたものが、つぎつぎと綺麗に整理整頓されていく、そんな感覚に襲われました。私が過去に読んだ本も多く紹介されており、あの本はこういう位置づけだったのだなと、今になってその意味合いを理解するということもありました。

 ちょっと残念だったのは、歴史研究の流れを追っているので、いわゆる研究でない歴史については司馬遼太郎以外は殆ど触れられていません。世の中で普通の人が歴史に触れる機会を考えると、歴史研究書を読む人と言うのはむしろ少数で、読み物(小説、ジャーナリズムをベースにした出版物、半藤一利さんのような作家のノンフィクションもの等)を通じて触れる機会の方が多いと思います。なので、そうした世のトレンドもスコープに入っているえば、いわゆる歴史というものがどう捉えてこられたかという点で更に広がりが出たのでは?という思いはあります。

 そうした点を差し置いても、世の中の変化の影響を受けてきた歴史学、歴史叙述というものを、客観的に見直し、理解するのに最適な入門書だと思います。
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