その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

N響12月A定期/指揮 アレクサンドル・ヴェデルニコフ/ロシア・プログラム

2018-12-04 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 毎年12月と言えばデュトア月間というのがここ数年のお決まりでしたが、残念ながら今年はその姿はなし。事情的にはここに居ないのはやむを得ないと思いますが、デュトアさんが振るN響は、現常任のパーヴォさんに勝るのではないかと思うほどの演奏をいつも聴かせてくれたので、寂しいと言えば寂しいことこの上ないです。

 まあ、それでもデュトア無き12月をヴェデルニコフさん、フェドセーエフさん、ヘンゲルブロックさん(この方は初めてですが)を揃えてくれるN響の調達力はたいしたものだと変に感心してしまいます。

 さて、今週のA定期は、前週のアメリカプログラムに喧嘩を売るように、ロシアプラグラムによる米露対決路線。相変わらず、私にはなじみのない曲ばかりで、どんな音楽体験ができるのか楽しみにNHKホールに見参しました。

 3曲とも印象深い曲ではありましたが。一番ビビっと来たのは、スクリャービンのピアノ協奏曲と後半のグラズノフの交響曲第7番でしょうか。スクリャービンのピアノ協奏曲はロシア的な郷愁めいたサウンドの中、コロベイニコフさんのピアノがよく響きました。変幻自在に動く手から一音一音がしっかりと聞こえて来る。アンコールはより彼の技巧が良くわかるクリャービンからの一曲でした。

 後半のグラズノフの交響曲第7番は、ベートーヴェンの6番に似た素朴な雰囲気が第一楽章にはあるものの、第二楽章以降は、私のステレオタイプ的なロシア風景を思い起こさせるに十分の音楽でした。ある意味、チャイコフスキーよりもロシアチックなところを感じた次第。管楽器の皆さんが良い仕事していました。

 ヴェデルニコフさんの指揮は前週の広上さんとは全く違いますが、指揮姿の流麗さと構造をわかりやすく聞かせてくれるという意味で、とても似通っていると感じました。純粋に音楽の良さを引き出してくれる音楽作りですね。

 席の埋まりぐらいは、残念ながら、前週並みで今週もかなり空席が目立ちました。7割ぐらいかな。それでも、終演後のヴェデルニコフさん、N響への称賛の拍手は熱く、大きかったです。その場に居合わせた幸福感を皆で共有するような一体感あふれる観客席でした。

 くどいですが、デュトアさんがいなかったのは残念極まりないですが、それでもヴェデルニコフさんとN響にこうした未知の音楽を聞かせてもらい、自分の音楽経験値を広げてもらったことに深く感謝です。


《アンコール曲》


《晩秋》


《終演後のNHKホール前 青の洞窟》


《原宿 表参道》


第1900回 定期公演 Aプログラム
2018年12月2日(日)
開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

スヴィリドフ/組曲「吹雪」―プーシキン原作の映画から
スクリャービン/ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20
グラズノフ/交響曲 第7番 ヘ長調 作品77「田園」

指揮:アレクサンドル・ヴェデルニコフ
ピアノ:アンドレイ・コロベイニコフ


No.1900 Subscription (Program A)
Sunday, December 2, 2018
3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Sviridov / “Snow Storm”, musical illustrations after Pushkin
Scriabin / Piano Concerto f-sharp minor op.20
Glazunov / Symphony No.7 F major op.77 “Pastoral”

Alexander Vedernikov, conductor
Andrei Korobeinikov, piano
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ついに完結・・・宮本輝 『流転の海 第九部 野の春』(新潮社、2018)

2018-12-02 08:48:06 | 



 ついに終わってしまった。作者自身は足掛け37年、途中から追いかけ始めた私は足かけ30年かけた、松坂熊吾のジェットコースター人生を軸とした、家族・親戚・商売仲間達の生きざま、日本人のうごめく生活史、日本戦後史を描いた物語が終わりとなった。

 最終巻は、終焉に向けて悠々と大河のごとく流れていく。自身が目標とした、息子が20歳となる70歳を迎え、身辺の整理を意識しつつ淡々と流れていく主人公の時間軸と、戦後の高度成長期を迎える日本の早い変化のスピードが絡みつつ、「宿命」の中で生きていく人間たちが描かれる。読みながら、いずれ晩年を迎える自分自身や、主人公同様に倒れて病院で死を迎えた父らの「宿命」や「業」について思いが及んだ。

 作者自身、生きている間に完結するかどうかが不安だっとというが、無事に完結に至ったことを何よりも祝いたい。日本文学史に残るべき物語となるべきだろう。
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