日曜日の午後、妻子を駅に送ったその足でO市にある古刹、S観音寺に向かった。時によっては無性に、自分の中にあるもう一つの存在者と向き合いたくて、郷愁にも似た思いがそこへと向かわせた。
表街道を二十分も走れば山門に到着する距離なのに、普段は無意識の中に常在して、さほどの「来たいという気持ち」も沸かずに済んでいる。
山門を潜ると、石畳参道の正面に古い阿弥陀堂があり、阿弥陀仏がひっそりと置かれている。寺域の静寂を全部集めたような、厳かな雰囲気があり、一番好きな仏堂だ。
静かで重厚で厳かに黒ずんだ弥陀仏に手を合わせていると、静けさの中に溶け込んでいく自分を感じている。
観音像のある本堂は、この阿弥陀堂を曲折して大杉の下を潜り、石段を登ったところにある。この大杉の手前を本堂に向かっているとき、石段の上の方から透けたような白い雲が飛んできて、私の体を通り抜けていった。これは霊運であろう。
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