Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン&日本フィル

2011年09月03日 | 音楽
 ピエタリ・インキネンはフィンランド出身の若手指揮者。現在はニュージーランド交響楽団の音楽監督を務めている。ドイツ各地のオーケストラへの客演も多い。日本フィルの首席客演指揮者を務めていて、目下「マーラー撰集」を継続中だ。9月定期はその交響曲第3番。メゾ・ソプラノはアンネリー・ペーボAnnely PEEBOというエストニア人。合唱は栗友会合唱団と杉並児童合唱団。

 結論からいえば、これは淀みなく流れる清流のようなマーラーだった。デフォルメされたところがなく、思い入れたっぷりに演出されたところもなく、すべてにバランスがとれた演奏。こういう演奏を聴いて、物足りないと感じる向きもあるかもしれないが、音楽的な質は高く、賢明さが感じられる演奏だ。

 同曲の演奏ではインバル指揮・都響のものが記憶に新しいが、例えばそれが一部の隙もなく塗られた油彩画だとしたら、インキネン指揮・日本フィルの演奏は余白を残した淡い水彩画だ。

 日本フィルは整ったアンサンブルでインキネンに応えていた。同オーケストラのアンサンブルを立て直したのは怪力ラザレフだが(ラザレフにはいくら感謝しても足りないくらいだ)、インキネンが振ったときも整っている。

 当夜のコンサートマスター(ミストレス)は江口有香さん。美しく柔軟性に富むソロを聴かせてくれた。大健闘だったのはトロンボーンの藤原巧次郎さん。カーテンコールではひときわ大きいブラヴォーを浴びていた。もう一人、見事なポストホルンを聴かせてくれたオッタビアーノ・クリストーフォリさんも特筆ものだ。わたしが今まで聴いたこの演奏のなかで、これが一番だった。

 アンネリー・ペーボのソロはあまり印象に残っていない。どういう歌を歌おうとしているのか、よくわからなかった。思い返してみると、横に譜面台を置いていたような気がする。この曲で譜面を見る歌手はいないわけではないが……。

 栗友会合唱団と杉並児童合唱団は美しかった。第1楽章冒頭から席に着いていたので(Pブロック)、子どもたちは大丈夫かなと心配したが、気分が悪くなる子もいず(都響のときはいた)、第5楽章の出番をきちんと努めてくれた。続く第6楽章も立ったままで通した。

 わたしはあの第5楽章では、いつも涙が出てしまう。ペテロの否認を扱ったこの音楽は、「マタイ受難曲」のアリアと双壁だ。
(2011.9.2.サントリーホール)
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