Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ミニョン

2011年09月05日 | 音楽
 首都オペラによるアンブロワーズ・トマの「ミニョン」。首都オペラは昨年ザンドナーイの「フランチェスカ・ダ・リミニ」を日本初演した。今年の「ミニョン」は日本初演ではないが、めったに観られない珍しいオペラだ。

 原作はゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」。作中のミニョンのエピソードをオペラにしている。原作は悲劇で終わるそうだが、オペラではハッピーエンド。いかにも19世紀フランス社会の趣味を反映した改変だ。

 演出は三浦安浩さん。オペラが始まる前から、舞台には人々がうろうろしている。場所は日本のどこかの潰れた映画館。演出家が台本を配る。これからゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」を上演しようとするところ。やがて序曲が始まる。

 劇は順調に進む。ところが〈フィリーヌを演じる女優〉の求婚者フレデリクの闖入によって混乱する。劇中劇に現実が割り込む展開、言い換えるなら虚実の交錯。ピランデルロの「作者を探す六人の登場人物」のようなテイストだ。

 〈ミニョンを演じる女優〉は徐々に〈ヴィルヘルムを演じる男優〉への愛に気づき、同時に〈フィリーヌを演じる女優〉への嫉妬に苦しむ。最後に劇は放棄され、〈ヴィルヘルムを演じる男優〉は〈ミニョンを演じる女優〉の愛を受け容れる。

 三浦安浩さんのこの演出は、甘いロマンティックオペラを現代に引き寄せることに成功するとともに、原作の改変をうまく処理するものでもあった。今後どこかでこのオペラを観る機会があるとしても、これ以上面白い上演に出会うことはできないだろうと思った。

 歌手は皆さん大健闘。ミニョン役の背戸裕子さんはミニョンの苦しみを十分に表現し、そこから真の美しさが表れていた。フィリーヌ役の山口佳子さんは恵まれた容姿を生かして、華やかで浮気っぽいフィリーヌで魅了した。ヴィルヘルム役の土師雅人さん、ロターリオ役の飯田裕之さんも文句なし。

 指揮はドイツ在住の渡辺麻里さん。歯切れのよい音楽づくりを楽しませてくれた。ドイツでは主にミュージカルやオペレッタを振っているそうだ。おそらく劇場の隅々まで知っているかただろう。オーケストラは神奈川フィル。これも文句なし。

 全体がここまでレベルアップすると、音楽面では合唱が、スタッフ面では照明が、相対的に物足りなくなる。今後さらに努力してもらえるとありがたい。
(2011.9.3.神奈川県民ホール)
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