Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

さまよえるオランダ人

2012年03月15日 | 音楽
 新国立劇場の「さまよえるオランダ人」。2007年の初演のときも観ているので、これで2度目だ。

 ネトピルの指揮が注目の的だ。まず序曲。冒頭の嵐のような音楽が静まって、穏やかな部分に入ったとき、後ろの席からラジオの音が聞こえてきた。かすかな音だが、これは気になる。音楽が音量を増すと、かき消されるが、静まると聞こえてくる。ついに何人かの人が振りかえったが、知らん顔だ。序曲が終わったとき、外国人の女性が小声で「消して!」といった。すると背広姿の男性が、緩慢な動作でポケットから携帯機器を取りだして、不承不承、スイッチを切った。ラジオの音は携帯機器に付いているイヤホンから流れていた。

 いろいろなことが起きるものだ。ともかくその女性のお陰で、静かになった。

 次に休憩後、劇場の人が舞台に出てきて、「ダーラント役のディオゲネス・ランデスが体調不良のため、カヴァーの長谷川顯が歌います」とアナウンスがあった。こういうアクシデントは、(本人にはわるいが)劇場でオペラを観る面白さだ。長谷川顯はさすがにベテランだけあって、堂々たるものだった。

 なんだかもう一つくらいアクシデントがありそうだなと思っていたら、第3幕の冒頭の水夫の合唱のところで地震が起きた。ユサユサとかなり大きく揺れた。でも音楽は止まらなかった。指揮者は気が付いていなかったかもしれない。止まらなくてよかった。

 さて指揮者のネトピルだが、何年か前にドレスデンで「サロメ」を聴いたことがある。そのときは豪快にオーケストラを鳴らしていた(しかもあのオーケストラはとびきり優秀なので、実に骨太の音がした)。今はオーケストラを抑えるところは抑えて、彫りの深いドラマを志向するようになった。

 オランダ人役のエフゲニー・ニキティンとゼンタ役のジェニファー・ウィルソンは、ともに高度なワーグナー歌手だ。第2幕の出会いの場面では、ネトピルの指揮ともども、きわめて濃厚な表現を聴かせた。「そうか!」と思った。このオペラは2種類の音楽(オランダ人とゼンタの超越的な音楽と、ダーラントとエリックの現世的な音楽)から成っていて、双方はかみ合わず、この場面で初めて同質の音楽が出会うのだと思った。

 シュテークマンの演出は2度目だが――、演出とはこわいものだと思った。その演出家の、演出家としてのセンスのある・なしが、舞台に出てしまうものだ。
(2012.3.14.新国立劇場)
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