Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

スクロヴァチェフスキ/読響

2012年09月25日 | 音楽
 スクロヴァチェフスキ指揮の読響を聴いた。スクロヴァチェフスキは今回も元気だ。1923年生まれだから今年89歳になる。どこまで元気なのかと思う。プログラムも凝ったものだ。とても枯淡の境地とはいえない。むしろそんなものはどこ吹く風、やりたいことをやる尖がったお爺ちゃんだ(失礼!)。

 1曲目は「魔弾の射手」序曲。冒頭のアダージョは一般的なテンポよりも遅い。スクロヴァチェフスキの思い入れというか、こだわりが感じられる。主部に入っても、彫りの深い、大きな構えの演奏が展開された。

 びっくりしたのは最後の部分だ。結末の和音に飛び込む前の一瞬の総休止の箇所で、チェロとヴィオラが鳴っていたような気がする。あれは錯覚か。帰宅後、ペータースのスコアを見てみたら(今はインターネットで見られる)、たしかに総休止だった。だがたしかに鳴っていた。あのときハッとしたのだ。このオペラの暗い深層心理が顔をのぞかせたような気がした。今までこの音に気付いていなかったのかと思った。でもそれは錯覚だったのか。

 2曲目はスクロヴァチェフスキ自身の作品「クラリネット協奏曲」。スクロヴァチェフスキが読響の常任指揮者をつとめたお陰で、ずいぶんその作品を聴かせてもらった。どの作品も面白かった。これもそうだ。スクロヴァチェフスキの作品は、明快なメロディーがあるようなものではなく、現代音楽的なものだが(大雑把な言い方で申し訳ありません)、演奏家の生理に反したところがないのではないか、という気がする。それプラス音楽的思考の活発さがその作品を特徴づけていると思う。

 クラリネット独奏はリチャード・ストルツマン。懐かしい名前だ。さすがに年を取ったが、今でも格好いい。「タッシ」のころを知っている者としては嬉しい。

 3曲目は「トリスタンとイゾルデ」(ヘンク・デ・フリーヘルによる管弦楽用編曲版)。これは驚くべき名演だった。音は瑞々しく、色彩豊かで、人間の生(なま)の感情が、まるで傷口がむき出しになるように、流れ出てきた。スクロヴァチェフスキの忘れがたい名演がまた一つ生まれた。

 フリーヘルはオランダ放送フィルの打楽器奏者だ。以前「ニーベルンクの指輪」の編曲版を聴いたことがある(あれはどこのオーケストラだったか)。それにくらべてこの編曲はよくできている、と思った。トリスタンとイゾルデの心理に焦点が絞られていた。
(2012.9.24.サントリーホール)
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