Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ザルツブルク:エジプトのジュリアス・シーザー

2012年09月08日 | 音楽
 ザルツブルクの2日目(最終日)はヘンデルの「エジプトのジュリアス・シーザー」だった。クレオパトラ役にチェチーリア・バルトリ。バルトリを聴きたいがためにチケットをとった。やはりすごい歌手だ。すごい、という言葉が月並みに感じられるほど特別な歌手だ。声を完璧にコントロールしている。現役の歌手でバルトリに並ぶ存在は、タイプはまったくちがうけれど、グルベローヴァしかいないのではないか。

 けれどもこの公演はバルトリだけでもっている公演ではなかった。4人のカウンターテナーをずらっと揃えたそのすごさ。セスト役のフィリップ・ジャルスキPhilippe Jarousskyはバルトリと同じくらい拍手喝さいを受けていた。まっすぐ伸びる張りのある声と、正確無比な音程。1978年生まれの若いフランス人だ。

 敵役のトロメーオを歌ったクリストフ・ドゥモーChristophe Dumauxもよかった。声量的にはジャルスキに一歩譲るものの、テクニックはひけをとらない。この人も1979年生まれの若いフランス人だ。この世代のカウンターテナーが台頭しているのだろう。

 ジュリアス・シーザー役は今やヴェテランのアンドレアス・ショル。この日は調子が悪かったのか、声がフラフラしていた。

 クレオパトラの侍女ニレーノ役に大ヴェテランのヨッヘン・コワルスキ。もうこわいものなしの大ヴェテランだ。脇役ながらユーモラスな演技で公演を支えていた。

 カウンターテナーが4人も揃う時代になったのだ、と感慨深かった。しかも未亡人コルネリア役にアンネ・ゾフィー・フォン・オッター。さすがに味のある歌唱と気品ある舞台姿だ。そのオッターが目立たずに、脇を固める存在に感じられることが、この公演のすごさを物語っていた。

 オーケストラはジョヴァンニ・アントニーニ指揮イル・ジャルディーノ・アルモニコ。音が瑞々しく、流麗で、情感たっぷりの演奏だ。ピリオド系の優秀な団体が続出する時代になったが、これもその一つだ。

 演出(※)はジュリアス・シーザー率いるローマ軍をEU連合軍に置き換え、石油の利権をめぐる侵略戦争として描いていた。クレオパトラは親EU派だ。フィナーレでシーザーやクレオパトラが祝杯をあげるその背後を、謎の軍団が包囲する。街かどの映像が投影される。Toscaninihofと書いてある。つまりこの劇場の外は――というわけだ。
(2012.8.29.モーツァルト劇場)

(※)Moshe LeiserとPatrice Caurierの共同演出。
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