Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

バイロイト:ローエングリン

2012年09月03日 | 音楽
 今年もバイロイト音楽祭に行くことができた。友人がワーグナー協会の会員になっていて、チケットが当たると分けてくれるからだ。もっとも「来年はリングのプレミエがあるから当たらないと思うよ」と言われているが。

 バイロイトは秋の気配が漂い始めていた。この時期にバイロイトに行くようになって3年になるが、今年が一番涼しかった。前の週は35度にもなったそうだから、急に気温が下がったようだ。すでに黄葉が始まっていた。

 1日目は「ローエングリン」だった。第1幕への前奏曲が始まると、繊細で、たっぷり情感がこめられた音、しかも豊かな起伏がつけられた演奏が流れてきた。一気にオペラの世界に引き込まれた。こういう演奏が日本では聴けない、と思った。

 バイロイトがバイロイトでいられるのは、このオーケストラのお陰かもしれない。歌手は世界中を飛び回っている。指揮者もそうだ。演出だってバイロイトが世界をリードする時代は終わっている。けれどもこのオーケストラは特別だ。ワーグナーをよく知っていて、しかもその音楽に人一倍の愛情をもっている人たちであることがわかる。

 指揮はアンドリス・ネルソンズ。その呼吸感がすばらしい。一方的にオーケストラを引きずりまわすのではなく、相互にかみ合って、信頼関係を築いていることが感じられた。

 タイトルロールはクラウス・フローリアン・フォークト。すばらしい、の一語だ。新国立劇場でもローエングリンを歌ったが、そのときとくらべて、さらにアクセントをつけて、踏み込んだ表現だったように感じる。

 一つアクシデントがあった。テルラムントを歌ったジェイムズ・J・マイヤーが第1幕で降板した。第2幕以降はユッカ・ラジライネンが歌った。代役がラジライネンというところがすごい。衣装やメークはもちろん、演技もこなしていた。マイヤーの調子が悪いので、最初からスタンバイしていたのかもしれない。

 演出はノイエンフェルス。ネズミ軍団のローエングリンだ。手(=前足)で鼻をかく仕種がいかにもネズミ的だ。会場からは笑いがこぼれた。わたしも笑った。寓意性が高いので、その解釈をめぐる論議もあるだろうが、個々の場面が明確なイメージで作り込まれているので、難しいことを考えなくても楽しめる。いろいろ物議をかもす演出家だが(それは計算づくだろう)、ひじょうに才能のある演出家であることが感じられた。
(2012.8.25.バイロイト祝祭劇場)
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