Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

デュトワ/N響

2013年12月02日 | 音楽
 デユトワ指揮N響のAプロは、いかにもデユトワらしいプログラムだった。こういうプログラムを組むのは、今のところデユトワともう一人、カンブルランくらいではなかろうか。では、どういうプログラムだったか。

 1曲目はストラヴィンスキーのバレエ音楽「カルタ遊び」。初めてこの曲を聴いたときにはびっくりした。それは数年前のこと、アンドリュー・リットン指揮の都響だった。のんきに聴いていたら、ロッシーニの‘あの曲’が出てきた。超有名曲の一節。呆気にとられた。あのときの驚きは忘れられない。

 なので、今回は免疫ができていた。‘あの曲’が出てくることは承知の上だ。落ち着いて聴けたわけだ。演奏は完璧だった。リズムも音色も整然としていた。模範的なプロの演奏だった。

 けれども、正直にいうと、ユーモアとかウイットとかは欠けていた――かもしれない――と思った。でも、すぐに思い直した。そういうものは振付がやるものであって、音楽はそこまでやってはいけない、劇場音楽とはそういうものだと。

 感想はこれで終えた方がいいのかもしれない。でも、正直にいってしまおう、これはN響の体質ではないかと思ったのだ。完璧な演奏だが、唯一欠けている点は自ら愉しむことではないかと。平たくいうと、ウキウキ感。都響のときにはそれが感じられたと記憶するのだが。

 2曲目はリストのピアノ協奏曲第1番。ピアノ独奏はスティーヴン・ハフ。1961年生まれというから中堅ピアニストだ。優秀なピアニスト。バリバリ弾く部分よりも、ゆったりした旋律を大きく歌わせるところに惹かれた。

 今更ながらこの曲は、演奏会で聴き映えがするようにできている曲だと感心した。1曲目を聴いた後なので、余計にそう思ったのだろう。リスト恐るべしだ。

 3曲目はショスタコーヴィチの交響曲第15番。第1楽章にはロッシーニの‘あの曲’が出てくるし(ただしストラヴィンスキーのときとはちがう曲)、第4楽章にはワーグナーの‘あの曲’が出てくる。初めて聴いたときには、腰が抜けそうになった。

 つまり今回のプログラムは‘音楽における引用’のプログラムだ。では、引用とはなにか、どういう意味があるのか、それが聴衆のわたしに宿題として課されたように思う。

 演奏はもういうことなし。きわめて集中力のある演奏だ。とくにピアノ、ピアニッシモの部分の集中力には息をのんだ。
(2013.11.30.NHKホール)
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