Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「点描の画家たち」展

2013年12月20日 | 美術
 「印象派を超えて~点描の画家たち」展の会期終了が迫ってきたので(東京展は12月23日まで。その後、広島と名古屋に巡回する)、ちょっと無理をして観にいった。

 点描という視点での構成が新鮮だ。もっとも、主催者側のコメントでは、より正確には分割主義というべきとしている。たしかに英語表記はDivisionismとなっている。点描と分割主義のちがいは、わたしなどが説明するまでもないが。

 ともかく、印象派の筆触分割が、スーラとシニャックの分割主義で体系化され、それがゴッホに影響を与え、またベルギーとオランダに伝播し、ついにモンドリアンの抽象絵画を生む過程を追ったのが本展だ。

 圧倒的な印象を受けたのはシニャックの「ダイニングルーム作品152」。白い大きなテーブルがあり、右手には気難しそうな夫が座っている。正面には妻が小さくなっている。妻の背後には窓があり、そこから射しこむ日の光が夫を照らしている。妻は陰になっている。2人のあいだに家政婦が立っている。家政婦は妻より偉そうだ。

 日常生活の静止画。夫はすべてを威圧する。妻はうつむいてお茶を飲んでいる。2人のあいだに交流はない。家政婦は冷ややかに見ている。みんな孤立していて、お互いに関わらない。そんな家庭を描いた絵――のように見える――。

 本作については、埼玉大学准教授(美術史)の加藤有希子氏による「明るさから疎外へ~『印象派を超えて』展でみる点描のパラダイムシフト」というエッセイがある(11月6日付けの東京新聞に掲載。本展のHPに再掲)。ひじょうに勉強になった論考なので、未読の方にはご紹介したい。

 次にスーラの作品では「ポール=アン=ベッサンの日曜日」に惹かれた。シニャックの前掲画にくらべて、なんと穏やかなことか。明るい日曜日の波止場。散歩する人々が行き交っている。マストの先端の旗が風になびいている。空には白い雲が浮かんでいる。調和のとれた日常。ホッとするような気分になる。

 モンドリアンでは「コンポジションNo.11」が美しかった。灰色の背景から淡い色彩の無数の四角い立体が浮き上がってくるような作品。瑞々しい詩情が感じられる。カンディンスキーもそうだが、モンドリアンも具象から抽象に移行する時期の作品が一番美しいと思う。綿毛のように繊細な神経が緊張で震えている。抽象が様式化すると、その緊張は失われる。
(2013.12.16.国立新美術館)

↓上記の作品は本展のHPでご覧になれます。
http://km2013.jp/highlight.html
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする