Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2013年12月11日 | 音楽
 カンブルラン/読響のハンガリー・プロ。そのプログラムを見て、思わずニンマリした。リゲティの「ロンターノ」とバルトークのピアノ協奏曲第3番が並んでいたから。「ロンターノ」は「アトモスフェール」などの星雲状の音楽を書いた後の、ぽかんと空が晴れたような透明な曲。バルトークのピアノ協奏曲第3番は、バルトークの絶筆にふさわしい、これも透明な曲。両者には響きあうものがあると思った。

 でも、そんな甘いものではなかった。「ロンターノ」は緊張の限界までいった演奏。‘音楽’の枠のギリギリまでいった演奏だった。正直いって、この日は仕事でいろいろあったので、疲れていた。そういう状態ではこの演奏はきつかった。そうだけれども、またとない体験だったのも確かだ。

 次のピアノ協奏曲第3番になったら、解放されたような気分になった。極北の地から温暖な地に着いたような感じがした。

 ピアノ独奏は金子三勇士。最近名前をよく見かけピアニストだ。三勇士はMIYUJIと読むそうだ。1989年生まれの若手。父は日本人、母はハンガリー人。この曲をなんの危なげもなく弾いたが、――当然といえば当然だが――個性が出るのはこれからだと思った。

 個性という点ではオーケストラの方があった。明るく暖かい音で、不必要なものがまったくない演奏。ことに第2楽章の美しさに注目した。バルトーク特有の‘夜の音楽’だと思っていたが、その照度の高さは‘昼’のようだった。

 休憩をはさんで3曲目はバルトークの「6つのルーマニア民族舞曲」。小品だが名演だった。演奏会で何度も聴いた曲だが、こんなに美しい音で、かつ個々のキャラクターを丁寧に描き分けた演奏は初めて聴いた。こういう曲を、おざなりにではなく、きちんと演奏するところが、カンブルランのいいところだ。

 最後は組曲「中国の不思議な役人」。まったく粗雑な音がない、完璧なまでに整えられた演奏。あえていうなら、フランス音楽のような演奏だった。しかもオーケストラのドライヴ感は手に汗握るよう。このコンビの今現在の成果が出た一例だ。

 意外なことに、アンコールが演奏された。ベルリオーズの「ラコッツィ行進曲」。ハンガリーつながりの選曲だ。ゲーテの戯曲にはないが、ハンガリーの草原でファウストが耳にするハンガリー兵の行進。この選曲は洒落ている。こういうところがカンブルランらしいと嬉しかった。
(2013.12.10.サントリーホール)
コメント
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