Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

安富歩「満洲暴走 隠された構造」

2015年11月23日 | 身辺雑記
 角川新書の「満洲暴走 隠された構造」を読んだ。満洲国はなぜ成立したか。なぜ暴走したか。その過程が分かりやすく辿られている。日本の近現代史に漠然としたイメージしか持っていないわたしは、ひじょうに勉強になった。

 著者は安富歩(やすとみ・あゆむ)氏。1963年生まれの東大教授だ。最近女装を始めたので、一部のマスコミで取り上げられたが、そんなことは些末なこと。いや、本質に触れる部分があるのかもしれないが、わたしがここでいいたいのは、もしも興味本位で見る人がいたとすると、それは大変失礼なことだし、安富氏の思想に触れることも、学ぶことも、できないだろうということだ。

 本書は4章からなっている。第1章から第3章までは、「満洲国」の成立から暴走への過程が丁寧に辿られている。第4章は、少し書き方が変わって、「満洲国」の崩壊を辿りつつも、そのとき活躍した人々の紹介と、安富氏の思想のキーワードが登場する。

 どの章もひじょうに興味深く読んだ。前述のとおり、わたしは日本の近現代史に疎く、問題意識も鮮明には持っていない人間だが、日本の近現代史を学ばなければならないとは思っているので、本書はまさにうってつけだった。

 満洲は、かつては、鬱蒼とした森林に覆われ、虎やヒョウが出没する一帯だった。そんなに昔の話ではなく、日露戦争(1904‐05年)の頃はそうだった。だが、日本からの開拓団が入った頃から森林が伐採され、見渡すかぎりの大豆畑に変貌した。「満鉄」の大活躍、そして満洲事変の勃発(1931年)、満洲国の成立(1932年)。あっという間の出来事だった。

 「満洲国」は日中戦争に直結し、さらに太平洋戦争につながった。そして東京など各都市への空襲、沖縄戦、広島と長崎への原爆投下へ。

 なぜこんなことになったのか。そこには日本人特有の思考パターン、行動パターンが窺える。その思考パターン、行動パターンは、今も変わらず残っている。これが本書の肝だ。

 そこを理解すると、今の日本がよく分かる。いや、今の日本などと大上段に構えずとも、身近にいくらでも思い当たる節がある。たとえば職場がそうだ。職場では、うんざりするほど、そのような思考パターン、行動パターンに遭遇する。わたしが辟易しているのはこれだったのかと――。

 いや、他人事ではない。わたし自身もそんな思考・行動パターンに染まっている。本書で問われているのはわたし自身だ。

※「満洲暴走 隠された構造」
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