Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

トスカ

2015年11月28日 | 音楽
 新国立劇場の「トスカ」を観た。カヴァラドッシ役のホルヘ・デ・レオンという歌手がすばらしい。張りのある声がまっすぐ伸びる。世界的に見てもトップレベルだろう。スペインの生まれ。年齢は記載なし。スペリングはJorge de Leon。覚えておこうと思う。

 トスカ役のマリア・ホセ・シーリという歌手は、11月23日の公演では第1幕が終わった後で降板したそうだが(カヴァーの横山恵子が代役を務めた)、この日は無事に歌ってくれた。第1幕では抑え気味だったように思うが、第2幕では細かい感情の揺れを聴かせてくれた。

 そもそもこのオペは、トスカのパートには感情の動きを細かく描く音楽が付けられている一方、カヴァラドッシとスカルピアの男声パートには、直情的な、ぶれない音楽が付けられている。今回その対比に今更ながら感心した次第だ。プッチーニの職人芸だ。

 職人芸といえば、オーケストラがけっして声を覆ってしまわず、いつも声のラインが明瞭に聴き取れることにも感心した。これもプッチーニの職人芸だ。その秘密はどこにあるのだろうと聴き耳を立てることも、プッチーニを聴く楽しみの一つだ。

 指揮はエイヴィン・グルベルグ・イェンセン。本年5月には読響を振ったが(曲目はショスタコーヴィチの交響曲第7番他)、正直いってあまり記憶に残っていない。今回は、イタリア・オペラ的な激情や甘さはなかったが、プッチーニがオーケストラ・パートに細かく織りこんだ諸々のモチーフを逐一辿ることができたので、悪くなかったと思う。

 演出のアントネッロ・マダウ=ディアツは去る8月に亡くなった。カーテンコールでは遺影を持った方が登場した。追悼公演の意味もあったのだろう。

 この演出でいつも感心するのは、第2幕のスカルピアの居室が、舞台前面の広い空間とその奥の狭い空間とに分かれていて、スカルピアが通行証を書く場面では、スカルピアは奥の空間で書き、激しく動揺するトスカは、前面の空間を行ったり来たりするところだ。トスカの一人芝居のような趣向になって、ひじょうに効果的だ。

 スカルピア役はロベルト・フロンターリ。ぎらぎらした欲望とか男の色気とかは乏しかったが、しっかりした歌唱で安心して聴けた。

 余談だが、第3幕の「星は光りぬ」のところで、オーケストラの後奏が終わる前にブラヴォーが出てしまい、余韻を楽しむことができなかった。
(2015.11.26.新国立劇場)
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