Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヘンリー四世

2016年12月03日 | 演劇
 シェイクスピアの「ヘンリー四世」二部作の通し公演を観た。「ヘンリー六世」三部作の通し公演のときは、最後は疲れてフラフラになったが、今回はそんなこともなく、無事に観終えることができた。

 「ヘンリー六世」三部作は絶賛の声に包まれ、その余勢を駆って「リチャード三世」も上演されたが、それらの公演と比べても、今回の「ヘンリー四世」二部作は、けっして引けを取らないばかりか、むしろ先に行っているかもしれないと思った。

 演出の鵜山仁によると、「ヘンリー六世」三部作は「比較的スタンダードなやり方」でやり、「リチャード三世」は「やや捻れて」やったそうだ(プログラム誌より)。では、今回はどうか。鵜山仁は語っていないが、わたしの感覚では、適度な締まりがあって、ゆるすぎず、まるで水の入ったゴムボールのように、どこを押しても復元力があるような柔構造を感じた。どこを押すかは観客に任せられている。

 オペラ・ファンにとっては、「ヘンリー四世」はヴェルディのオペラ「ファルスタッフ」の原型フォールスタッフが登場する芝居だ(もっとも「ファルスタッフ」は「ヘンリー四世」ではなく「ウィンザーの陽気な女房たち」に基づくオペラだが)。

 さすがにフォールスタッフの存在感は圧倒的だった。うっかりすると、史劇を喜劇のほうに引っ張っていってしまう。そのフォールスタッフを佐藤B作が好演した。ことに第一部で生き生きとした息遣いを感じた。

 皇太子ヘンリー(通称「王子ハル」)を演じた浦井健治とヘンリー・パーシー(通称「ホットスパー」)を演じた岡本健一とは、「ヘンリー六世」三部作、「リチャード三世」以来、新国立劇場のシェイクスピア史劇には欠かせない存在になっていると実感した。

 女性の登場人物は少ない。オペラ「ファルスタッフ」でお馴染みのクィックリー夫人は(居酒屋の女将として)登場するが、その存在感が増すのは「ウィンザーの陽気な女房たち」になってからだ。それにもかかわらず、芝居としての華やぎに欠けていないのは、ひとえにフォールスタッフの存在ゆえだ。

 フォールスタッフは第二部の幕切れで、ヘンリー五世として即位した王子ハルによって追放される。それが可哀想だと感じる向きもあるようだが、わたしは当然の措置だと思った。統治者となった者(王子ハル)にとって、昔の仲間ほど邪魔な者はいないだろう。
(2016.12.1.新国立劇場中劇場)
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