Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

すぐそこにある遭難事故

2016年12月27日 | 身辺雑記
 「すぐそこにある遭難事故」(金邦夫(こん・くにお)著、東京新聞刊)を読んだ。著者は奥多摩の山々を所轄する青梅警察署の山岳救助隊副隊長を長年務めた人。都民にお馴染みの奥多摩だが、意外にも遭難事故が多発している。その救助の体験を書いた本。

 低山の多い奥多摩で遭難とは‥と、だれもがそう考えるだろう。それは自己責任だとか、初心者だからだとか‥。でも、実際に遭難の経験をしたわたしには、そういう批判的な考え方はできなかった。

 わたしが遭難したのは今年11月23日(翌24日は東京など各地で雪が降った)。場所は伊豆の天城山。わたしは何回も登っている。天城高原のゴルフ場から取り付き、天城峠まで縦走するコースだ。時間はかかるが、危険な箇所がなく、季節に応じて新緑や紅葉が楽しめる美しい山だ。

 わたしは以前、今回と同じ紅葉の季節に、道に迷ったことがある。落ち葉で登山道が隠れてしまうのだ。そのときは、しばらくして登山道から外れたことに気付き、元の地点に戻ることができた。その記憶があるので、今回も要注意だと思っていた。

 それなのに、またやってしまった。天城峠の上の八丁池まであとわずかという所で、落ち葉で登山道を見失い、元の地点に戻ろうとしているうちに、完全に方向感覚を失った。小1時間くらいウロウロした。午後3時になったので、日暮れまでの時間(あと1時間半くらい)と、夜からの降雪の天気予報を考慮して、やむを得ず110番した。圏外ではなかったのが幸いだった。

 ヘリコプターが来てくれた。必死になって手を振ったが、発見されなかったようだ。やがて日が暮れた。山からガス(霧)が降りてきた。急速に寒くなった。下着もシャツもセーターもジャンパーも、持っているものは何枚も重ねて着た。降雪に備えて雨具も着た。それでも少し震え始めた。食料と水は持っていた。寒さが一番心配だった。

 結局、午後8時くらいにレスキュー隊に救助された。わたしは「申し訳ありません」の一言だった。レスキュー隊には頭からどやしつけられてもおかしくないところ、「怪我はありませんか」「歩けますか」と優しく接してもらい、自分のふがいなさを恥じた。

 その晩はホテルに泊まった。翌朝、山々が白く冠雪し、雪がなおも降り続いているのを見て、「もし救助されなかったら、低体温症で一晩もたなかったかもしれない」と思った。生きていることの現実感が妙になかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする