ヴァイグレ指揮読響の日曜マチネーシリーズへ。1曲目はワーグナーの「さまよえるオランダ人」序曲。バランスのとれた音の構築が快い。冒頭のホルンのテーマが細かくアクセントをつけられ、音楽を推進する。その一方で、おどろおどろしいところがないのはヴァイグレ流か。
2曲目はモーツァルトのファゴット協奏曲。ファゴット独奏はフランス人の女性奏者ロラ・デクール。デクールはヴァイグレが音楽監督をつとめるフランクフルト歌劇場のソロ・ファゴット奏者だ。ファゴット特有の、どこかとぼけた音色と、滑らかな音の連なりが楽しめた。
アンコールがまた楽しかった。だれの、なんという曲かはわからないが(読響のホームページにも会場の東京芸術劇場のホームページにも載っていない)、ユーモラスで、むしろコミカルな小品だ。最後は奏者が短いフレーズを繰り返しながら退場する。会場からはドッと笑いが起きる。デクールのプロフィールには「劇やダンスなど」にも関心を持ち、コラボ企画にも参加しているとある。芝居気のある人かもしれない。
協奏曲ではオーケストラの演奏にも注目した。穏やかで、流れのよい演奏だった。とくに第2楽章での弦楽器の澄んだ音色が印象的だった。わたしが初めてヴァイグレの演奏を聴いたのは、2002年5月のベルリン国立歌劇場でのモーツァルトの「後宮からの逃走」だった。ヴァイグレという名前さえ知らなかったが、流れがよくて、とてもよい演奏だと思った。後年になって、バイロイトで「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を聴いたが、それはあまり印象に残っていない。ともかく、当日のファゴット協奏曲には、もう20年前になる「後宮からの逃走」を想い出させる要素があった。
3曲目はベートーヴェンの交響曲第7番。リフレッシュされた音と、重くならないリズム。結果、清新な演奏だ。弦楽器はノンヴィブラートだが、チェロはヴィブラートをかけていたようだ(意図あってのことだろう)。第3楽章はけっして野放図に鳴らさずに、弱音が徹底的にコントロールされている。第4楽章は快速テンポ。オーケストラが一糸乱れずについていく。恐ろしいほどの切れ味のよさだ。さりげない所に生まれた名演だろう。
ヴァイグレは現代ドイツの巨匠といってもよいポジションにあるが、その演奏は往年のドイツの巨匠とは一味違い、明るくポジティブで、深刻ぶらない。尖ったところはなく、基本的には保守的だが、ゴリゴリの保守ではなく、現代人の感覚に合ったところがある。そして、わたしなどがいうまでもないが、音楽的な能力がきわめて高いことは、当日の読響がとてもよい状態にあったことが証明する。
(2022.6.26.東京芸術劇場)
2曲目はモーツァルトのファゴット協奏曲。ファゴット独奏はフランス人の女性奏者ロラ・デクール。デクールはヴァイグレが音楽監督をつとめるフランクフルト歌劇場のソロ・ファゴット奏者だ。ファゴット特有の、どこかとぼけた音色と、滑らかな音の連なりが楽しめた。
アンコールがまた楽しかった。だれの、なんという曲かはわからないが(読響のホームページにも会場の東京芸術劇場のホームページにも載っていない)、ユーモラスで、むしろコミカルな小品だ。最後は奏者が短いフレーズを繰り返しながら退場する。会場からはドッと笑いが起きる。デクールのプロフィールには「劇やダンスなど」にも関心を持ち、コラボ企画にも参加しているとある。芝居気のある人かもしれない。
協奏曲ではオーケストラの演奏にも注目した。穏やかで、流れのよい演奏だった。とくに第2楽章での弦楽器の澄んだ音色が印象的だった。わたしが初めてヴァイグレの演奏を聴いたのは、2002年5月のベルリン国立歌劇場でのモーツァルトの「後宮からの逃走」だった。ヴァイグレという名前さえ知らなかったが、流れがよくて、とてもよい演奏だと思った。後年になって、バイロイトで「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を聴いたが、それはあまり印象に残っていない。ともかく、当日のファゴット協奏曲には、もう20年前になる「後宮からの逃走」を想い出させる要素があった。
3曲目はベートーヴェンの交響曲第7番。リフレッシュされた音と、重くならないリズム。結果、清新な演奏だ。弦楽器はノンヴィブラートだが、チェロはヴィブラートをかけていたようだ(意図あってのことだろう)。第3楽章はけっして野放図に鳴らさずに、弱音が徹底的にコントロールされている。第4楽章は快速テンポ。オーケストラが一糸乱れずについていく。恐ろしいほどの切れ味のよさだ。さりげない所に生まれた名演だろう。
ヴァイグレは現代ドイツの巨匠といってもよいポジションにあるが、その演奏は往年のドイツの巨匠とは一味違い、明るくポジティブで、深刻ぶらない。尖ったところはなく、基本的には保守的だが、ゴリゴリの保守ではなく、現代人の感覚に合ったところがある。そして、わたしなどがいうまでもないが、音楽的な能力がきわめて高いことは、当日の読響がとてもよい状態にあったことが証明する。
(2022.6.26.東京芸術劇場)