Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2022年06月22日 | 音楽
 ヴァイグレ指揮読響の定期演奏会。1曲目はルディ・シュテファンの「管弦楽のための音楽」。ルディ・シュテファンは1887年生まれのドイツの作曲家だ。第一次世界大戦に従軍して、1915年に戦死した。戦死した場所は現在のウクライナだ。プログラムを組んだときにはもちろんロシアのウクライナ侵攻は始まっていなかったので、たんなる偶然に過ぎないが、現在のウクライナ情勢のもとでこの曲を聴くと、今こうしている時も多くの若者が命を失っている現実と重なる。

 「管弦楽のための音楽」は1912年の作品だ。近年ではキリル・ペトレンコがベルリン・フィルを指揮して演奏している。またこの作曲家には「最初の人類」(1914年)というオペラがあり、最近ではフランソワ=グザヴィエ・ロトがオランダ国立歌劇場で上演している。ヨーロッパで再評価が進む作曲家なのだろう。

 わたしはルディ・シュテファンの作品を聴くのは初めてだ。一聴したところ、同世代のアルバン・ベルク(1885‐1935)とは距離があり、むしろシュレーカー(1878‐1934)につながる資質の持ち主かもしれないと思ったが、どうだろう。具体的にいうのは難しいが、同じ文化の爛熟とはいっても、12音技法には向かっていきそうもないものを感じた。

 2曲目はブルックナーの交響曲第7番(ノヴァーク版)。第1・第2楽章の、ゆったり抑揚をつけた深い呼吸の演奏と、それとは対照的に第3・第4楽章の、指揮者とオーケストラが寸分の隙もなく一体化した躍動的な演奏と、それぞれが達した高度な水準に息をのんだ。とくに第3・第4楽章の充実した音は驚異的だった。ヴァイグレは1961年生まれだ。今年61歳。ちょうど脂がのりきった時期なのだろう。この時期でなければ出せない音が出ていたように思う。

 わたしは心からその演奏を称賛するが、その上であえていえば、ヴァイグレの演奏には一種の楽天性を感じる。滑らかで、耳障りなところがなく、しかもフォルテの音は充実しているのだが、その反面、あまり深刻にはならない。その意味でリヒャルト・シュトラウスの作品には抜群の相性の良さを感じる。一方、他の作品には判断を留保したいときがある。もちろん、慌てて付け加えれば、今度のブルックナーは、オーケストラを聴く醍醐味という点では、なにら文句をつける筋合いはないが。

 ヴァイグレの評価ということでは、もうひとつ、山崎浩太郎氏がプログラムに書いているように、ハンス・ロットやフランツ・シュミットなど「ドイツ語圏の知られざる音楽」を継続的に取り上げている点も重要だ。それが読響のプログラミングを幅広くさせ、ヨーロッパの第一線のオーケストラ並みにアップデートしている。
(2022.6.21.サントリーホール)

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