Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ソヒエフ/N響

2023年01月16日 | 音楽
 トゥガン・ソヒエフ指揮N響のAプロ。1曲目はブラームスのピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏はハオチェン・チャン。1990年上海生まれ。フィラデルフィアのカーチス音楽院で学び、2009年にヴァン・クライバーン国際コンクールで第1位になった。

 曲が曲なので(つまり大曲中の大曲なので)、最初は力んだ表現も見られ、また音が濁ることもあった。そんな中で、このピアニストはどんなピアニストなのかと、探る思いで聴いた。わかってきたのは、高音がはっきり鳴らされる点だ。錯綜する音の中で、高音にアクセントが置かれる。そのため照度の高い音になる。それとともに、音の運動性が高いことも感じた。どこに向かって動いているのか、わかりやすい。それらの資質が曲とマッチしたのは第4楽章だ。明るい音色でリズミカルに動く音楽が、ハオチェン・チャンの資質とマッチして、水を得た魚のような演奏が展開された。

 一方、オーケストラはニュアンス豊かで、かつシンフォニックな演奏を聴かせた。その演奏は、ハオチェン・チャンのような若くて技巧に優れたピアニストもいいが、渋い音色で音楽をじっくりかみしめるタイプのピアニストもいいような気がした。

 ハオチェン・チャンのアンコールがあった。ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」だ。高い音から下に降りていくテーマの、その音の軌跡が目に見えるようだった。先ほど述べたことを繰り返すようだが、音の運動の方向がはっきりしているからだろう。

 2曲目はベートーヴェンの交響曲第4番。ずっしりと厚みのある音と、徹底的にコントロールされた弱音と、その両方ががっしり組み合わされた演奏だ。堂々として彫りの深い演奏といってもいい。加えて印象的なのは、指揮者とオーケストラの一体感だ。ソヒエフとN響がお互いを信頼し合って演奏していることが感じられる。ソヒエフは躍動感のある音楽性の持ち主だが、それが尖った表現に向かうのではなく、どこか保守性を感じさせることが、N響を安心させるのかもしれない。

 周知のようにソヒエフは昨年、ロシアのボリショイ歌劇場の音楽監督のポストと、フランスのトゥールーズ・キャピトル管弦楽団の音楽監督のポストを同時に退いた。キャリアの中で脂の乗り切った時期での、その予想外の出来事に、どんな思いを噛みしめたことか。

 なお当日はN響の第1コンサートマスターの篠崎史紀の、同ポストでの最後の公演だった(今後特別コンサートマスターに就任予定)。篠崎史紀はN響の顔としてひと時代を築いた。後事を託す郷古廉から花束を贈られ、ソヒエフから拍手を送られる中で、篠崎史紀はホッとしただろうか。オーケストラとは人間臭いドラマの場だ。
(2023.1.15.NHKホール)

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