
子供の頃、何度読み返したか分からない「メリー・ポピンズ」。
少し大きくなって、原作のイメージよりも綺麗なメリーや、あまり可愛くない顔立ちの子供たち、
そして妙に明るい仕上がりに多少の違和感を覚えながらも
それでも夢中になって観たミュージカル映画「メリー・ポピンズ」。
その映画の制作秘話とあっては、やはり観ない訳にはいきません。
イギリスの名女優エマ・トンプソンが、額に何本ものくっきりした皺を浮かべた頑固なオバさん、
トラバース婦人を演じているのにまず驚きました。
メリー・ポピンズの原作者、トラバース夫人。
この人が、似ても焼いても喰えない頑固者と来ている。
ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)から20年前より映画化の依頼を受けているのに
ずっと断り続けてきた。
しかしそれは、彼女の子供の頃の悲しい思い出に理由があったから…

1900年代初め、オーストラリアの田舎で育った少女ギンティ(トラバース夫人)の父親は
娘への愛情には誰にも負けなかったが、アル中でどうしようもない銀行員だった。
少女は父親に好かれたいばかりに、隠されていた酒瓶を渡してしまう。
アル中のダメ親父を持ったことは、子供の責任ではないのに。
そしてその飲んだくれが早くに亡くなってしまったのも、子どものせいではないのに。
しかし少女は、ずっと自分を責め続けてきたのでしょう。
その大好きな父親との思い出を投影して作り上げたのが小説「メリー・ポピンズ」だったのです。
ハリウッドの映画製作現場に乗り込んできて微に入り細に入り難癖をつけるのも
そうした背景が分かってくると、合点が行く部分があります。
自分の大事な「メリー・ポピンズ」を、金の亡者ディズニーの、甘ったるい大衆向けの商品にしてたまるか!
というところか。
しかしそれをもってしても、あまりに偏屈で頑固なオバサンではあるのですが。

紆余曲折の末、ようやく出来上がった映画。
その完成試写会で、エスコートしてくれる人もいないトラバース夫人に
そっと手を差し出すミッキーマウス。
私が一番好きなシーンです。
アニメが我慢できない!と憎まれ口を聞きながら、夫人が号泣するシーンも。
彼女が作り上げたメリー・ポピンズが救ったのは、子供たちではない。
救って欲しかったのは、父親バンクス氏。
原題”Saving Mr.Banks”がそれをよく表しています。
トラウマに苦しむ彼女を救ったのは、ウォルト・ディズニーでもあった。
聞き慣れた「2ペンスを鳩に」「チム・チム・チェリー」がこんなに優しくも
悲しい曲だとは思いませんでした。
ウォルト・ディズニーの約束 http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/walt