
1915年第一次世界大戦中、オスマントルコ帝国でアルメニア人の大虐殺が起こる。
鍛冶屋として平和に暮らしていたアルメニア人ナザレットはある日突然、
砂漠に連行され、強制労働に従事させられる。
その後、仲間は皆殺されたが、彼は声を失くすもののかろうじて一命を取りとめる。
終戦後、生き別れた娘たちを探して、レバノン、キューバ、アメリカと
途方もない旅に出る…

虐殺されたアルメニア人は100万人とも150万人とも言われるが
はっきりしていないようです。
何しろ、トルコ政府は未だに公式に認めていないのですから。
トルコ系ドイツ人であるファティ・アキン監督にとっても
母国の恥部を認めるのは、勇気が要ったことでしょう。

てっきり硬派の社会派映画だと思って見始めたこの作品、
前半は確かにそうで、残虐なシーンが続きます。
戦争という状況の下、虐殺、強奪、強制連行、レイプが起こるのはいずこも同じ。
イスラム教であるトルコ帝国の中で、アルメニア人というのはキリスト教であったのですね。
少数民族、少数信徒が苛められるのも、いつの時代にもお約束。
しかし後半は「母を訪ねて三千里」のようになってしまって、やや拍子抜け。
それでも娘たちを探して、灼熱の砂漠を歩き、海を越え、遠いキューバや
アメリカにまでも旅に出る、声を持たないナザレットの姿には胸を打たれます。
アルメニアの民謡のような歌の調べの、なんと哀切なこと。
最近話題になっている、アレッポのオリーブオイル石鹸が
結構重要な役どころを持った小物として出てきたのにも驚きました。
「消えた声が、その名を呼ぶ」 http://bitters.co.jp/kietakoe/