
画面は小さなもののアップから始まります。
それは5歳のジャックの目線でとらえた世界。
ジャックにとっては、3メートル四方ほどの部屋が、世界のすべて。

17歳の時から7年間、小さな部屋に監禁されているママ・ジョイと、
5年前に生まれた息子のジャック。
時々最低限の食料を持って来て、ママの上に馬乗りになるオールドニック。
オールドニックが訪れている間は、ジャックは洋服ダンスの中に隠れているが
実はこっそり覗いていた。
ジョイはできる限りジャックを普通に育てようと努力し、字を教え、運動や工作をさせる。
息子は閉ざされた空間の中でも素直に育ち、ジョイの支えになっていた。
ジャックの5歳の誕生日を迎え、ジョイは勇気を振り絞って脱出を決意する。

二人はかろうじて脱出できたのですが、そこから新たな戦いが始まる。
マスコミとの攻防、社会への適応、PTSDとの闘い。
母親と息子はどうやって乗り越えていくのか。
ジョイの部屋は、彼女が高校生の頃のままで時間が止まっている。
アルバムの友人たちとの写真を見て、彼女たちには何も起こらなかったと泣き崩れるジョイ。
17歳からの7年間を奪われた口惜しさ、悲しみはいかばかりのものか。
監禁部屋でたった一人で死に物狂いで産んだのであろう息子が
トラウマに潰されそうになった母親を救うシーンでは、涙を誘われます。
日本でも最近、中学生の少女の監禁事件が発覚したばかりですが
被害者にとっての闘いは、解放されてからも続くのだとつくづく思います。

ジョイの実父は、ジャックと目を合わせようとしない。
ジャックは愛娘を誘拐し、レイプした男の息子であるから。
ジョイはジャックを心から愛し、マスコミの心無い質問に対しても
息子の親は自分だけだと言い切りますが、そこは本当に難しいと思う。
ジャックが成長したら、父親のことをどう説明するのか?
私が親しくして頂いているアメリカ人の牧師さん、彼らのプロテスタント福音派という流派は
基本的に中絶を認めないのだそうです。
レイプされた場合でも?と訊くと
子供には罪がないから、と答えられました。
理屈では分かっても、もし自分だったら?と考えてしまう。
この作品はエマ・ドナヒューの小説『部屋』が原作であり、
それはオーストリアのフリッツル事件を基に書かれたのだそうです。
1984年から24年間、父親が実娘を地下室に監禁し、7人の子供を産ませたという事件。
その子供たちは今もなお、世界の何処かで生きているのですよね…
監督はレニー・エイブラハムソン、主演のブリー・ラーソンはアカデミー賞主演女優賞獲得。
「ルーム」 http://gaga.ne.jp/room/