
1980年代初頭のイギリス、海辺の街の映画館エンパイア劇場で働くヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、辛い過去をかかえ、精神疾患を患っていた。彼女の過去を知るスタッフたちは暖かく見守っていたが、支配人のエリス(コリン・ファース)は、彼女を性処理の道具として扱っていた。そんな彼女の前に、大学進学をあきらめて映画館で働くことを決めた黒人青年スティーブン(マイケル・ウォード)が現れる。
過酷な現実に道を阻まれてきた2人は、人種も年齢も違うも少しずつ心を通わせていくが、失業率増大の社会不安の下、人種差別主義の若者たちによって恐ろしい事件が起きてしまう。

結構つらい物語です。
若くも美しくもなく、悲しい過去と精神疾患を抱えた中年女性。
移民の子として生まれ、貧しさゆえに勉学の道を閉ざされてしまう黒人青年。
心に痛みを抱えて、傷を舐め合うように寄り添っていくが、ヒラリーは時に感情を爆発させてしまう。
どうしようもない生きづらさを抱え、それでも人は生きて行かなければならない。
取り巻く社会は厳しいが、相手を回復させることで自分も救われるという美学がそこにあった。
しかし、自分よりも年上のような女性と息子がつき合っていると知ったスティーブンの母親は、内心は忸怩たるものがあったでしょうに、潔かったなあ…

監督・脚本・製作は、「1917 命をかけた伝令」などのサム・メンデス。
先日観た「エンドロールの続き」がインド版ニュー・シネマ・パラダイスだとしたら、こちらはイギリス版のそれでしょうか。
コロナ禍におけるロックダウンを経験し、映画館の存続に危機を覚えたメンデス監督は、今こそ映画館への愛を形にするべきだと考えて、本作の制作をスタートさせたのだそうです。
問題が多すぎて全体が散漫になった印象もありますが、映画愛はしっかりと感じられました。
アールデコ様式の「エンパイア劇場」が、レトロな雰囲気を醸し出していました。

エンパイア・オブ・ライト公式HP
確かにイギリス版「ニューシネマ・パラダイス」でしたね。
あのままスティーブンに映写技師を引き継いでほしかったです。
あの劇場、印象的なアールデコ様式の外観を持つ、
元映画館とダンスホールで構成されたDreamlandという
実際にある建物なのですって。
あの淡白なラストは、好みが分かれるところでしょうね。