赤字国債法早期成立は菅首相続投環境整備策だ
民主党の現執行部が自民、公明と協議して子ども手当の廃止を決めた。2009年8月総選挙で民主党が提示したマニフェストの目玉政策を民主党が自ら放棄したことになる。
しかし、これは民主党の総意ではない。現在の民主党執行部が現在行っていることは、政局への対応ではなく、党内政局への対応である。現在の民主党執行部の行動に欠落しているのは、主権者国民との契約に対する真摯な姿勢である。
岡田克也氏を筆頭とする現在の民主党執行部は、民主党内での自派の強化、民主党内の本来の主流派に対する牽制だけを追求している。自分自身の利益だけを追求し、国会議員が主権者国民の負託を受けた存在であることを無視した、極めて自己中心的な考えが彼らの頭を支配している。
大震災発生から間もなく5ヵ月の時間が経過する。しかし、被災地ではいまだにがれきの山が積み残され、多くの同胞が冷房もない避難所暮らしを強制されている。政府は政府がやるべきことを何もしてない。
福島で人類史上最悪レベルの放射能放出事故が発生したのに、政府は国民の生命と健康を守る対応策を示さなかった。五月雨式の避難エリアの拡大は大きな混乱をもたらし、放射能拡散情報の隠蔽は、多数の市民の大量被曝をもたらしたと思われる。
何よりも重要なことは、政府が全力をあげて被災者の生活を支えることである。原発事故の被害者は多数に及び、消費者の選択により事業が立ち行かなくなる市民が激増している。これらの人々はすべて原発事故の被害者であり、事故発生に責任を負う東電がその損害を賠償する責務を負い、損害賠償規模が東電の負担能力を上回る場合には、東電を法的整理したうえで国が責任をもって損害賠償に取り組まねばならない。
このことは、既存の法律に明記されていることである。ところが、原子力利権のなかにある菅内閣は、東電を法律に反して救済する選択を示す一方で、原発事故被害者に対する損害賠償措置に真剣に取り組んでいない。
これらの失政を理由に、菅首相に対する辞任要求が国民全体の声になっているのである。
6月2日に辞意を表明した菅首相は、その後に詐欺的手法で総理の椅子にしがみついている。このことが、日本全体を沈滞した空気と無責任体質が覆い尽くす最大の原因になっている。
その中で、菅首相は改めて辞任3条件を示した。①第2次補正予算、②財確法、③再生エネルギー特措法、の三つが成立すれば「一定のめどがついた」ことになると述べて、この段階で首相を辞任する意向を示したのである。
しかし、この人物の言葉は信用できない。うそつきで、詐欺師的手法を多用することがこれまでの実績で明らかにされているからだ。
したがって、民主党執行部と自民、公明は、まずは、首相が確実に辞任することに向けて協議をするべきなのだ。それが、主権者国民の意思に沿う行動である。
ところが、民主党執行部は、党内での自分たちの地位の保全にうつつを抜かし、石原伸晃氏が幹事長を務める自民党は、どのタイミングで総選挙に持ち込むのが自民党にとって最も有利であるかという、党利党略だけを持って行動している。
民主党基本公約の放棄は、財確法と取引すべき事項ではない。そもそも、民主党内でのコンセンサスを得ていない。菅-仙谷-岡田-野田-前原-枝野-玄葉-渡部の民主党悪徳8人衆は、民主党内の正統派グループと対立している。この悪徳8人衆が率いる民主党内グループは「悪徳民主党」と呼ぶことができる。
悪徳民主党は、①対米隷属、②官僚利権擁護、③政治と大資本の癒着堅持、を基本方針としており、自民党と同種同根の政治グループである。
これに対して2009年8月総選挙で政権交代の偉業を実現した正統民主党は、①対米隷属からの脱却、②官僚利権の根絶、③政治と大資本の癒着排除、を基本方針として、その実現を目指している。
岡田克也氏は、政局を利用して、正統民主党が提示した基本公約の破棄を画策しているのである。姑息で卑怯な行動が岡田克也氏の身上である。
自民党と交渉して子ども手当を放棄して何が得られるのか。何を得ることもない。菅首相の辞任確約を取らずに、赤字国債発行法を成立させて、どうしようというのだ。
岡田氏は菅首相と刺し違えるなどと言いながら、このまま菅首相体制で進むことを画策しているとしか思われない。
このまま、菅体制で進み、民主党内の正統民主党を殲滅できるチャンスを狙って解散総選挙に持ち込もうと考えているのではないか。
この停滞した空気、無責任体質の蔓延を断ち切るには、一刻も早く菅首相を辞任させることしか道はない。菅直人氏が辞任三条件を提示したのだから、これをてこに確実に菅直人氏の辞任を実現させるのが、民主党執行部と自民、公明の役割ではないか。これが、主権者国民の声を尊重する政治の姿勢である。
そのためには、財確法と首相辞任を確実に交換条件にすることが不可欠である。財確法=赤字国債発行根拠法を通してしまった状況を考えてみるがよい。この法律が通れば、菅直人氏が辞任する切迫した理由は消滅するのである。
子ども手当を捨てて、財確法が成立する環境を整えることは、菅直人氏の辞任環境を整えることではなく、菅直人氏の続投環境を整えることになることなど、明白である。
恐らく、卑怯で姑息な岡田克也氏は、このことを知ったうえで、子ども手当を破壊して菅直人氏の首相留任に協力しているのだと考えられる。
財確法=赤字国債発行法が成立しなければ、必ず国政はマヒすることになる。最終的には日本国債がデフォルトになる。したがって、この法律は最後には必ず成立させざるを得ない法律なのだ。
だから、この法律を盾として活用すれば、必ず菅直人氏の辞任を取り付けることができる。菅直人氏が辞任しない限り、この法律を通さないことを提示して交渉するのである。
菅直人氏は自分が辞任しなければ日本国債がデフォルトになる状況を形成されれば、辞任せざるを得ない。
もし、ここで、自民党が子ども手当を放棄しないなら財確法を通さないとするなら、そのまま放置すればよいだけだ。自民党が自分の主張をごり押しして、どれが通らなければ国政マヒも差し支えないとの姿勢を取るなら、批判は必ず自民党に向かう。
だから、岡田克也氏はいまの段階で子ども手当を放棄する必要などまったくなかった。岡田氏は単に、正統民主党の看板政策だから、積極的にこの政策を破壊したかっただけなのだ。このような自己中心的人物が幹事長に居座っていることが、民主党の悲劇を招いている。
菅直人氏は信用できない人物だから、財確法と首相辞任の取引については、必ず書面での契約を交わす必要がある。鳩山由紀夫前首相との口頭の約束は、その後に平然とこれを反故にした実績を持つのだから、署名捺印のある契約書を交わし、財確法成立の段階で首相を必ず辞任することについて一筆を取る必要がある。
菅直人氏を辞任させ、日本政治の人心を一新することが、この国の再出発には不可欠である。新しい体制は、
①対米隷属、②官僚利権擁護、③政治と大資本の癒着維持
を基本方針とする旧来の自公および悪徳民主党による守旧派勢力と
①対米隷属脱却、②官僚利権根絶、③政治と大資本の癒着排除
を基本方針とする正統民主党を軸とする改革派勢力との間の闘いによって決定されることになる。
時間がかかるにせよ、改革派勢力が主導権を奪還し、改革派政権を樹立することで、新しい日本の歴史が始まるのである。
本当の意味での日本再生には、この体制の構築が不可欠である。