第三五課 家庭
私は紅山茶花べにさざんかを見るといつも思うのです。家庭というものは、こうも静かで浄らかであり、可憐なあでのいろをも添えたい。静かで浄らかでも蓮の花ではあまりに淋しい。梅でも百合でも香があって常住をともにするには刺戟が強い。では香がなくまた淋し過ぎない花として桜はどうか、牡丹、しゃくやく、の花はどうか。それはあまりに華やか過ぎる。紅山茶花の「紅のいろ」こそ、静かな浄らかな山 . . . 本文を読む
十一月九日 曇――雨、行程三里、和食松原、恵比須屋。
四時半起床、雲ってはいるが降ってはいない、助かった! という感じである、おばあさんが起きるまで日記をつける、散歩する、身心平静、近来にないおちつき、七時前出発、橋を二つ渡るとすぐ安芸町、午前中行乞、かなり長い街筋である、行乞しおえると雨になった、雨中を三里あまり歩いて和食町、教えられた宿――町はずれの、松林の中のゑびすやにおちつく、ほんによ . . . 本文を読む
十一月八日 晴――曇、行乞六里、伊尾木橋畔、日の出屋で。
五時前に眼が覚めた、満天の星のひかりである、家人の起きるまで読んだり書いたりする。
ゆっくりして七時すぎてから立つ、ところどころ行乞、羽根附近の海岸風景もわるくない。
奈半利貯木場、巨材が積み重ねてある、見事なものだ、奈半利町行乞、町に活気がないだけそれだけ功徳も少なかった、土佐日記那波の泊の史蹟である。(935(承平5)年頃紀貫之作 . . . 本文を読む
第三四課 結婚と夫婦愛
青年男女が相当の年配に達すると、自然と起る呼び声があります。「いつまでぐずぐずしているのだ。もう身を固めてもよかろう」。それは傍はたからも聞えて来ますし、自分自身の内部からも湧き上って来ます。何故そんな呼び声が起って来るのでしょうか。自分の家庭を作って心身の拠よりどころとし、ひいては子孫をもうけ家系を絶やさぬようにするのが世間のしきたりだからそういう声が起って来る . . . 本文を読む
十一月七日 秋晴、行程四里、羽根泊(小松屋)。
早起、津寺拝登、行乞三時間、十時ごろからそろそろ西へ歩く――(銭十六銭米八合)。
途中、西寺遥拝(すみません)(西寺とは26番金剛頂寺のこと)、不動岩の裏で、太平洋を眺めながら、すこし早いが、お弁当を食べる、容樹アコウの葉を数枚摘む。
松原がつづく、海も空も日本晴、秋――日本の秋、道そいの畑には豌豆がだいぶ伸びている、浜おもとがよく茂っている . . . 本文を読む
第三三課 婚約の前に八方手を尽せ
婚約ということは、殆んど結婚したも同様で、婚約してしまった後で、また取り消すということは、人情的にも、法律的にも面倒です。だから婚約する前にまず充分調査して、後でまごつかぬようにしなければなりません。
ここに一人の若い女性があって、夫を選ぶことになりました。やがて候補者が見付かったので、彼女は自分でも、八方手を尽して、その男の身元、素性、性癖、能力、 . . . 本文を読む
4年前の今日、東日本大震災がおこりました。地殻変動で地震が起こるといってみても、ではなぜ地殻変動が起こるのか?です。
「大智度論巻」ではまさにわれわれ凡愚の衆生を覚醒するために地震が起こるとあります。
大智度論巻弟八です、
「問曰。佛何以故に三千大千世界を震動させたまふや。
答曰。衆生をして一切皆空無常なることを知らしめんと欲するが故に。諸人あり、言く、大地及日月須彌大海是皆有常なりと。是以て世尊 . . . 本文を読む
十一月六日 曇、時雨、晴、行程六里、室戸町、原屋。
朝すこしばかりしぐれた、七時出立、行乞二時間、銭四銭米四合あまり功徳を戴いた、行乞相は悪くなかったと思う、海ぞいに室戸岬へいそぐ、途上、奇岩怪石がしばしば足をとどめさせる、椎名隧道は額画のようであった、そこで飯行李を開く、私もまた額画の一部分となった訳である。
室戸岬の突端に立ったのは三時頃であったろう、室戸岬は真に大観である、限りなき大 . . . 本文を読む
第三二課 恋愛
子供は大抵中性です。中性というのは男性的なところも、女性的なところもあるものです。
それが年を経るに従って、男性、女性を発揮して参ります。男性には剛健の肉体、鬱勃たる勇気、不撓不屈の精神、鋭敏な決裁能力などが盛り上って来ます。女性には柔軟な優しみ、惻々たる慈悲心、風雅な淑かさ、繊細な可憐いじらしさなどの情緒が蓄積されて来ます。
この両方の特長を兼ね備えるということ . . . 本文を読む
(十一月五日、室戸岬へ)
おほらかにおしよせて白波
ごろごろ浜
水もころころ山から海へ
銃後風景
おぢいさんおばあさん炭を焼いてゐる
旅はほろほろ月が出た
旅のからだをぽりぽり掻いてゐる
病みて旅人いつもニンニクたべてゐる
(室戸)
わだつみをまへにわがおべんたうまづしけれども
あらなみの石蕗の花ざかり
松はかたむいてあら波のくだけるまゝ
蔦がからまりもみづりて電信棒 . . . 本文を読む
第三一課 性欲
性欲は人間の三大本能(食欲、睡眠欲、性欲)の一つであります。そして他の二欲と違って、年齢により著しき消長があります。青年期から壮年期にかけて強く、少年期はまだ現れず、老齢になるに及んで減退するものであります。この性欲の根本使命は、種の保存、子孫繁栄にあるようですから、これを今さら取り立てて説明研究する必要はありません。ただ注意としてそれが非常に惑溺性を帯びておりますが故に . . . 本文を読む
第三〇課 愛・憎
愛しようと努めたとて、なかなか愛し得るものではありません。愛は花のようなものです。ひとりでに心の中に咲かなければならないものです。花は温かい季節に多く咲きます。心の季節の温かい人は愛の花を多く心に持つわけです。心のあたたか味は何から湧くでしょうか。理解からだと思います。理解を広くしようと心がけている人が世の中を最も広く愛し得るわけなのでありますが……しかし、ここに、感覚 . . . 本文を読む
四国遍路日記
種田山頭火
十一月一日 晴、行程七里、もみぢ屋という宿に泊る。
――有明月のうつくしさ。
今朝はいよいよ出発、更始一新、転一歩のたしかな一歩を踏み出さなければならない。
七時出立、徳島へ向う(先夜の苦しさを考え味わいつつ)。
このあたりは水郷である、吉野川の支流がゆるやかに流れ、蘆荻が見わたすかぎり風に靡いている、水に沿うて水を眺めながら歩いて行く。
宮島という . . . 本文を読む
Q,鳥居とは何ですか?
A、・第1説、(神道集「鳥居の事」より)鳥居は仏教のあらゆる功徳の集まったものでここを出入りすると悟りが開けるとする説。(神道集、鳥居の事)「鳥居の中を一度出入するものは菩提を決定するという妙観察智門である、鳥居に二柱あるのは定・慧、金・胎、二王(仏法守護の2体の金剛力士)を表わす。三木(笠木・貫木・嶋木・・2本の柱の上に笠木をのせ上層の笠木に接して島木を渡す。その下に貫木 . . . 本文を読む
十一月十六日 晴――曇、行程八里、越智町、野宿。
暗いうちに起きたが出発は七時ちかくなった、思いあきらめて松山へいそぐ、――高知では甲斐なくも滞在しすぎた、さよなら、若い易者さんよ、老同行よ、さよなら高知よ。
途中処々行乞、伊野町へ十一時着いて一時まで行乞(道中いそいだので老同行を追いぬいたのは恥ずかしかった、すまなかったと思う)、銭三十四銭米六合戴いた、仁淀川橋、土佐紙などが印象された。
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