極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

その後のへーリオスⅢ

2014年06月06日 | 環境工学システム論

 

 

●その後のヘーリオス Ⅲ

  コキノダイナス(赤鬼)


今夜は、大勢赤鬼の家に集まり酒盛りにおしゃべりがてんこ盛り状態になっている。それじゃや、

話の中に入ってみよう。お邪魔しまします!


 観測をはじめて120年になる最悪の大洪水に見舞われたバルカン半島ですが、セルビアは 
 東日本大震災の直後、2億円を超える寄付が寄せられ、メッセージも一緒に送られてきました。
 洪水は大量の機雷と不発弾が一緒に流失しその被害が懸念されていますよ。と、ベゴニアがし
 ゃべと、万年書生気質のアルマイティが珍しく、顔を上げ、そういえばコロラド州西部の奥地
 で巨大な土砂崩豪雨により発生し、行方不明者3名がでているしね。世界の平均気温の上昇の
 影響と考えられている異常現象が多発しているよ。と鉛筆がわりに目刺し変えて酒を呑みほし
 スモール・トークを入れると、茶碗に酒をつぎながら、それはそれとして、ヨーロッパの中央
 銀行)が、マイナス金利にする思い切った金融緩和策を発表したが、どう思っているのか聞か
 せてアルマティはん? そうですね、アベノミクスも参考にしての話ですが、有効需要の掘り
 起こしですが、「移民と失業」の背景をよく押さえておく必要があると思いますが、これは直
 関係なさそうな話ですが。





 アルチュール・ランボーが詩を捨て、中東やアフリカ交易していた、晩年滞在していたアデ
 (イエメンの港町、現在首都)時代のランボーの写真が発見されたというが、奴隷商人の時

 から数え約百年。欧州で働く多くの移民の"奴隷労働"状態が放置されたままだとも言われて

 るから、人権問題に敏感だが、反面、武器輸出は続く限り、この"三角貿易"の図式も残ったま
 まに
あり、それが怨嗟や格差拡大を助長する"歪な有効需要"を生み出すだろうと、そんな風に
 考えて
いますと、付け加え、とは言え、"デジタル革命”のハイテク効果もあり、ミス・リー
 ドがな
ければ、いずれは是正されだろうと喋った。「ここはみどりの穴ぼこ/川の流れが歌を
 うたい/銀のぼろを狂おしく岸辺の草にからませる/傲然と立つ山の峰からは太陽が輝き/光
 
によって泡立っている小さな谷間だ・・・」だったでしょうか、『Le Dormeur du val  谷間に眠
 る
男』は。とベゴニアが割り込むと、向かい側に座っているカミラが肯き、バック・チャンネ
 ル。
それを見たコキノダイナスは、席に近寄り酒を注ぎながら、里山のバイオマス運動で頑張
 っているんやねと切り出すと、どうして知っているのかと照れ笑いながら聞くので、市の広報
 でインタビューされていたやないかと応じると、バイオマス発電の後継者がいなくて困ってい
 るんだがと話し、もう吞めんようになったと愚痴るように喋りながら注がれた茶碗酒を一気に
 吞み干した。

 カミラのアバター 

 そこのへーリオスちゃんは興味ないのかなぁ?と急に話を振られたヘーリオスは、興味はある
 のですが、いま抱えている"太陽の道"プロジェクトの仕事が手がいっぱいです。そうね、中途
 半端に加わると無責任になりますよねとベゴニアが言うと、それは、それとして、カミラさん
 と話を続けてもらうとして、"太陽の道"プロジェクトの話というか、研究成果をみんなに話し
 てくれませんか?えぇ~、それじゃ順序はばらばらになるますが、まず、東日本大震災で息を
 吹き消した、メガソーラーの、それもその推進役を果たした孫正義が社長のソフトバンクエナ
 ジのメガソーラーの発電状況で気がついたことをすお話させていただきます。



 ソフトバンクは全国で15カ所、稼働中9カ所、予定は6カ所で、稼働中トータルで67.4メガ
 ワット、計画トータルは177.1メガワットで総導入量は244.5メガワットと約7万2千世帯分の
 規模です。グラフ(上図)は、昨年の10月28日から今年6月6日にかけての累積発電量と一日
 当たりの発電量のグラフで、大きく変わっているのは今年2月1日より鳥取米子のソーラパー
 クが稼働したためですが、この2つの期間の一日の発電量の平均値と標準偏差、ばらつきです
 ね。それと変動係数、つまり標準偏差÷平均値×100%試算したものですが、前半変動係数が、
 201.6%、後半は90.1%と累積発電量が大きくなると変動係数が比例するのかと考えいましたが
 以外に少ない前半の方が変動が2倍程度大きくなっています。
 

  へーリオス(舳離雄)のアバター

 変動を押さえるには電力貯蔵設備、え~っと、蓄電池が必要だというわけねとベゴニアが尋ねると、そう
 ですがと応えると、細かなことは一旦、おくといして、カラミも絡むんやけど再生可能エネルギーというや
 つは現状どうなっているかとコキノダイナスと矢継ぎ早に質問すると、いままで静かに議論を聞いていた
 プロンシャスが、それじゃわたしの方から話そうと喋りはじめた。 

 

 ドイツに本部を置くエネルギー専門家団体「21世紀の再生可能エネルギーネットワーク」(RE
 N21)の「自然エネルギー世界白書2014」の情報では、 2013年末の世界の再生可能エネルギー
 発電容量は、2012年から8.3%増加して1,560GWとなり、再生可能エネルギーは、現在、世界の
 発電電力量の22%以上に達した。2013年1年間で、再生可能エネルギーは世界の発電容量の増
 加量(正味)の56%以上だということです。太陽光はそのなかでも、2013年は初めて、世界全
 体での太陽光発電の新規導入量が風力発電の新規導入量を上回り、世界全体での太陽光発電へ
 の投資額が2012年に比べて約22%減少したが、発電設備の新規導入量は27%以上増加していま
 す。

  ベゴニア(秋海棠)のアバター

 とりわけ、2013年の日本の太陽光発電の新規導入量は6.9GWで、累積導入量は13.6GWとなった。
 2013年は固定買取価格制度を追い風に導入量を増やし、累積導入量は、昨年よりひとつランク
 をあげ世界4位。中国の2013年の新規導入量は12.9GWで、累積導入量で19.9GWとなり、ドイツ
 についで2位です。また、再生可能エネルギーの成長を促す支援政策を採用する新興国は95カ
 国に達し、2005年のわずか15カ国から6倍に成長した。再生可能エネルギー支援政策が後退、
 あるいは見通しが不確実になる、過去に遡って支援を縮小させるといった事例が見られる欧州
 や米国の一部とは異なり、新興国でのこうした傾向は対照的である。雇用においても、2013年
 には世界中で約650万人が直接あるいは間接的に再生可能エネルギー分野で働いていると推計さ
 れています。

 

 プロンシャスのアバター 


 再生可能エネルギーは、2012年の世界の最終エネルギー消費のうち19%を供給し、2013年も増
 加し続け、この2012年の世界の最終エネルギー消費のうち、10%は「現代的な再生可能エネル
 ギー」であるが、残りの9%は減少しつつある「伝統的なバイオマス」によるもので「現代的
 な再生可能エネルギー」とは、太陽光や風力、地熱、バイオマスボイラーなど現代技術を用い
 た効率の高い再生可能エネルギー利用をさします。「伝統的なバイオマス」は、薪や炭などを
 用いた効率の悪いバイオマス利用のあり方を指しています。ここで、中国、アメリカ合衆国、
 ブラジル、カナダ、そしてドイツは、依然として再生可能エネルギーの累積の発電設備容量で
 上位の座を保っていますが、中国での再生可能エネルギーの発電設備の新規導入量が、化石燃
 料や 原子力による発電設備の新規導入量を初めて上回っています。


 この報告書では、2013年の世界の再生可能エネルギーによる発電と燃料への投資額は少なくと
 も2494億米ドルだが、2012年の投資額と比べて14%減、2011年の記録的な投資額と比べると23
 %減少していますが、
REN21の議長であるアルソロス・ゼルボスは「世界の再生可能エネルギ
 ーに対する認識は大きく変化した。問題はもはや、全ての人がエネルギーを手にした再生可能
 エネルギー100%の未来を実現するために、どのようにしたら現在の導入ペースを最大限加速
 できるだろうか、というものに変わってきた。これを実現するためには、現在の考え方を変え
 なければならない。現状の寄せ集めの政策や取り組みを継続するだけでは、もはや不十分だ」

 と話しています。

 


 そこの「再生可能

エネルギー100%の未来を実現するために、どのようにしたら現在の導入ペ
 ースを最大限加速
できるだろうか」というところでね、ヘーリオスが提案している「ポスト・
 メガソーラ」「変換効率25%超時代」やねと酔いが回った顔したカラミが、ポンと肩をたたき
 酒を注ぎにきている。「もうこれ以上は呑めませんが」と扱い困った顔をしている。面白いこ
 とに昨年、東芝が米国サンパワー社から単結晶パネルを供給を受けバックコンタクトといって
 陽極側を受光面にして効率を上げたことが大きいくモジュールで変換効率20.1%と他社を出し
 抜き、2020年のロードマップの20.0%をクリアしトップ踊りでたが、今年に入り売れ筋ランキ
 ングでもトップになっていますと、アバターは補足し、6月4日にオリックスが三重県津市の
 ゴルフ場跡地に、太陽光パネルの直流出力約51MWのメガソーラーの建設を発表していると言い
 終えた。

 アルマティのアバター

 
 そこで、25%超は実現可能かというと、パナソニック(三洋電機)では実験室段階だけれど
 24.6%を実現しているからそれも近いうちクリアー出来てしまうのではと思うよと付け加えた。
 ところで、最近の新規考案というのはどうなっているのとベゴニアは尋ねた。変換効率ではな
 いが、シャープから化合物系太陽電池の製造法(特開2014-093399「化合物薄膜太陽電池およ
 びその製造方法」)、簡単に言うと(1)厚塗りを簡単に行い(2)乾燥後の残留応力をなく
 すために(3)分割パターニングするというもの、これはプロセス技術に熟知していなければ
 わからないでしょう(下図参照)。ところで、大容量の蓄電装置やシステムにいいアイデアが
 みつかりましたか?

 

 リチウムイオン電池や、硫黄ナトリウム電池などの電池類については激しい技術開発競争にあ
 りますが、ここ
は、太陽光発電と熱電変換素子(ペチェ素子)などを組み合わせる方法につい
 て考えてみました。ヒントになったのは東芝の「特開2014-99510 太陽光発電機」ですが、簡
 単に言うと単結晶シリコン系は温度依存性で上昇すると再結合が起き出力低下を起こすため、
 太陽電池セルの熱を回収し、貯蔵し、放出する。常温(20℃)以上~百℃以下の範囲で融点を
 持ち、過冷却をもつ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、エリスリトールなどの潜
 熱蓄熱材を使うというものです。過冷却を有する潜熱蓄熱材とは、融点以下の温度でも固化せ
 ずに液体で準安定に存在する物質をさします。蓄熱材は30℃以上90℃以下の範囲で融点をもち
 かつ融点から30℃以上で過冷却状態をもつものです。



 もうひとつの新規考案(特開2014-074397「次世代電力貯蔵システム及び次世代電力貯蔵方法」)
 は、再生可能エネルギーや夜間の余剰電力を活用して電力を貯蔵し、ピーク電力時に貯蔵電力
 を供給する電力貯蔵システムとして、圧縮空気や液圧等の圧力エネルギーを利用した電力貯蔵
 システムが提案されていますが、地上・地下に大規模な高圧液体アキュムレータ配置するため、
 構造が大きくなり、製造コスト高で、作動媒体の空気は密度が低く、貯蔵容器から圧縮空気を
 取り出すと、圧縮空気の圧力エネルギーが急峻低下し、安定した電力が供給できなという問題
 があります。また、揚水発電システムも提案も同様の問題を抱えています。大容量のバックア
 ップ蓄電装置を使わず、低コストで長寿命であり、安全で信頼性が高い次世代電力貯蔵システ
 ムと次世代電力貯蔵方法として、蓄電装置からの出力電力を利用しパルス電流を発生させ、こ
 の電流を超臨界流体発生器に供給しながら高圧作動流体供給源から高圧作動流体を超臨界流体
 発生器に供給し超臨界流体を発生させ、回転式流体機械で膨張させて得た機械エネルギーで発
 電機を駆動することで安定した電力供給させようという提案がなされています。



 なお、超臨界流体発生器ではアーク放電で、導電水から発生した超臨界水は温度が、6百℃~
 8百℃の時に350bar前後の超臨界圧となり、この超臨界水が回転式流体機械で爆発的に膨張
 し、発生した爆発圧力はロータリピストンの回転方向において10平方cm当り1千Kg前後
 にも達し、エネルギー効率が高くなり、小型高性能となるとしてあります。そこで、作動流体
 には、導電水の他に、単純な水、炭酸ガス、水と炭酸ガスの混合流体、水とアセトン(50%:
 50%の比率)の混合流体、導電水とアセトン(50%:50%の比率)の混合流体などの作
  動流体を用いても可能だと書かれていますが、これについては、別の専門家に相談してみない
 とわかりませんが、大がかりなシステム装置になりそうです。
 


JP 2008-301630 A 太陽熱と地下放熱との温度差を利用した発電蓄電システム


 そのことを踏まえても回転摺動部などがあり簡素にしたいということで、水などの熱媒体の
 循環ポンプを1つもって。地上と地下の蓄熱タンクを往復循環させるだけで、日中の太陽光
 パネルを冷却させ発電効率を高めながら、蓄熱材に放熱させその温度差を熱電変換素子で電
 力変換させ、夜間には蓄熱材と外気温との温度差を逆に電力変換させるというシステム考え
 てみましたがいかがでしょうかと。言い終えてヘーリオスはその場で黙り込んでいた。しば
 らくして、それは面白と他の全員は賛同し、酒を吞みながらあれやこれやとめいめいが雑談
 し、懇親を深めた。

                                    この項了




                                
                                    



 

 

 

  

 

  セックスが終わると、二人は横になったまま話をした。とはいっても話すのは専ら彼女の方
 で、羽原はそれに適当に相づちを打ったり、たまに何か短い質問をするだけだった。そして時
 計の針が四時半を指すと、シェエラザードは話が途中であってもそこで切り上げ(なぜかいつ
 も話が佳境に入ったところでその時刻がやってきた)、ベッドを出て、床に散らばった服を集
 めて着込み、帰り支度をした。夕食の支度をしなくてはならないから、と彼女は言った。

  羽原は玄関口で彼女を見送り、ドアにまたチェーン錠をかけ、汚れた青い小型車が去って行
 くのをカーテンの隙間から見ていた。六時になると冷蔵庫の中の食材を使って簡単な食事を作
 り、一人で食べた。しばらくコックをしていたこともあり、彼にとって食事を作ることはまっ
 たく苦痛ではない。食事のときにペリエを飲み(アルコールは一切口にしない)、そのあとは
 コーヒーを飲みながらDVDの映画を見るか、本を読むかした(彼は読むのにできるだけ時間
 がかかり、何度も読みかえす必要がある本を好んだ)。他にこれといってすることもない。話
 をする相手もいない。電話をかける相手もいない。コンピュータは持っていないから、インタ
 ―・ネットにアクセスすることはできない。新聞もとっていないし、テレビ番組も見ない(そ
 れ
にはもっともな理由がある)。もちろん外に出ることもできない。もし何らかの事情で、シ
 ェ
エラザードがもうここを訪れることができなくなったら、彼は外界との連絡を―切絶たれ、
 文字通り陸の孤島に一人で取り残されてしまうことになる。

  でもそのような可能性は羽原をさして不安にはさせなかった。それはおれが自分一人の力で
 処理しなくてはならない状況だ。むずかしい状況だが、なんとかそれを切り抜けていくだろう。
 おれは一人で孤島にいるわけではない、と羽原は思った。そうではなく、おれ自身が孤島なの
 だ。一人でいることに彼はもともと慣れていた。彼の神経は一人きりになってもそれほど簡単
 には折れない。羽原の心を乱していたのは、そうなったらもうシェエラザードとベッドの中で
 話ができなくなるということだった。もっと端的に言えば、彼女の語ってくれる物語の続きが
 聞けなくなることだった。

 「ハウス」に落ち着いてからしばらくして、羽原は髭を伸ばし始めた。もともと髭は濃い方だ。
 顔の印象を変えるという目的ももちろんあったが、それだけではない。髭を伸ばし始めた主な
 理由は、なにしろ手持ちぶさただったからだ。髭があれば、しょっちゅう顎やもみあげや鼻の
 下に手をやって、その感触を楽しむこともできた。鋏や剃刀を使って形を整えることで時間を
 潰すこともできた。これまでそんなことには気づかなかったけれど、髭を伸ばしているだけで
 意外に退屈が紛れるものなのだ。

 「私の前世はやつめうなぎだったの」とあるときシェエラザードはベッドの中で言った。とて
 もあっさりと、「北極点はずっと北の方にある」と告げるみたいにこともなげに。やつめうな
 ぎがどんな格好をしたどんな生き物なのか、羽原はまったく知識を持だなかった。
  だからとくにそれに対して感想は述べなかった。
 「やつめうなぎがどうやって鱒を食べるか知っている?」と彼女は尋ねた。
 いや、知らない、と羽原は言った。やつめうなぎが鱒を食べるなんていうこと自体初耳だっ
 た。

 「やつめうなぎには顎がないの。そこが普通のうなぎとは大きく違っている」
 「普通のうなぎには顎があったっけ?」
 「鰻をちゃんと見たことないの?」とあきれたように女は言った。
 「ときどき食べるけど、顎まではなかなか見る機会はない」
 「今度どこかでよく見てみるといいわ。水族館とかに行って。普通のうなぎには顎もあるし、
 ちゃんとした歯もついている。でもね、やつめうなぎには顎がまったくないの。そのかわり目
 が吸盤みたいになっている。その吸盤で河や湖の底の石にくっついて、逆さになってゆらゆら
 と揺れているの。水草みたいに」

  羽原は水底でたくさんのやつめうなぎが水草のように揺れているところを想像した。それは
 なんとなく現実離れした光景だった。とはいえ現実が往々にして現実離れしていることを羽原
 は知っていた。

 「やつめうなぎは実際に水草にまぎれて暮らしているの。そこにこっそり身を隠している。そ
 して頭上を鱒が通りかかると、するすると上っていってそのお腹に吸い付くの。吸盤でね。そ 
 して蛭みたいに鱒にぴったりくっついて寄生生活を送る。吸盤の内側には歯のついた舌のよう
 なものがあって、それをやすりのようにごしごしと使って魚の体に穴を開け、ちょっとずつ肉
 を食べるの」
 「あまり鱒になりたくないな」と羽原は言った。
 「ローマ時代にはやつめうなぎの養殖池がほうぼうにあって、言うことをきかない生意気な奴
 隷たちが生きたままそこに投げ込まれ、やつめうなぎたちの餌にされたということだけど」

  ローマ時代の奴隷にもなりたくない、と羽原は思った。もちろんどんな時代の奴隷にだって
 なりたくないけれど。

 「小学生の頃、水族館で初めてやつめうなぎを見て、その生態の説明文を読んだとき、私の前
 世はこれだったんだって、はっと気がついたの」とシェエラザードは言った。「というのは、
 私にははっきりとした記憶があるの。水底で石に吸い付いて、水草にまぎれてゆらゆら揺れて
 いたり、上を通り過ぎていく太った鱒を眺めたりしていた記憶が」
 「鱒を誓った覚えはない?」
 「それはない」
 「よかった」と羽原は言った。「やつめうなぎだった頃について覚えているのはそれだけ?
 ゆらゆら水底で揺れていたことだけ?」
 「前世のことって、全部すらすらと思い出せるわけじやないから」と彼女は言った。「うまく
 いけば、何かの拍子にそのほんの一部だけが思い出せる。あくまで突発的に、小さな覗き穴か
 ら壁の向こうを覗くみたいにね。そこにある光景のほんの一画しか見ることはできない。あな
 たは自分の前世のことが何か思い出せる?」

 「何も思い出せない」と羽原は言った。正直なところ前世のことを思い出したいという気持ち
 もなかった。今ここにある現実だけで手一杯だ。

 「でも湖の底にいるのはなかなか悪くなかったな。□で石にぎゆっと吸い付いて、逆さになっ
 て、上を通り過ぎる魚たちを見ているの。すごく大きなすっぽんも見たことがある。下から見
 上げているとそれは、『スター・ウオーズ』に出てくる悪い宇宙船みたいに暗くて巨大だった。
 嘴の長くて鋭い大きな白い鳥たちが、殺し屋のように魚たちを襲っていた。鳥たちは水底か

 ら見ると、青空を流れる雲のようにしか見えなかった。私たちは深いところで水草の中に隠れ
 ていたから、鳥たちからは安全だったけれど」





 「君にはそういう光景が見えるんだ」

 「とてもありありと」とシェエラザードは言った。「そこにあった光とか、水の流れの感触と
 か。そのとき自分が考えていたことまで思い出せる。ときにはその光景に入っていくこともで
 きる」

 「考えていたこと?」
 「そう」
 「君はそこで何かを考えていたんだ」
 「もちろん」
 「やつめうなぎはどんなことを考えるんだろう?」
 「やつめうなぎは、とてもやつめうなぎ的なことを考えるのよ。やつめうなぎ的な主題を、や
 つめうなぎ的な文脈で。でもそれを私たちの言葉に置き換えることはできない。それは水中に
 あるもののための考えだから。赤ん坊として胎内にいたときと同じよ。そこに考えがあること
 はわかるんだけど、その考えをこの地上の言葉で表すことはできない。そうでしょ?」
 「ひょっとして君は、胎内にいたときのことを思い出せるの?」と羽原は驚いて言った。
 「もちろん」とシェエラザードはこともなげに言った。そして彼の胸の上で首を僅かに傾げた
 「あなたは思い出せないの?」
  
  思い出せないと羽原は言った。
 「じゃあ、いつかその話をしてあげる。私が胎児だった頃の話を」
  羽原はその日の日誌には「シェエラザード、やつめうなぎ、前世」と記録しておいた。もし
 他人がそれを目にすることがあっても、何のことだかわけがわからないだろう。


 
                   村上春樹 著『シェエラザード』(MONKEYVol.2)

                                   この項つづく



 

今日、マイ・ピーシをハンズフリー化し、音楽や電話通信を行えるようにした。ところで、デジ
タル化で大き
なレコードジャケットが消えたように、取扱説明書も細かい字(英語と中国語の2
つ)でかかれているため
に、ちゃんと速く理解するには、これが障害となる。これで明日からは
トイレに入っても50メートル以内なら、綺麗に音楽(繊細な音質に拘らなければの話)を聞き
くこともできると納得する。"ビバ!デジタル革命渦論"だ。
 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする