【スマート道路】
やっちまった!?この情報を知ったとき、頭に浮かんだのはこの言葉だった(太陽光で発電し
ネットとも連携して各種情報を表示できるスマート道路「Solar Roadways」とは何か)。それ
というのもこの構想はすでに持っていて、開発テーマとして企業内提案した経験もあり、その
後のブログテーマとして過去何回か提案してきたものだし、福島第一原発事故以降、吹き出し
た日本国民の"脱原発"の声を追い風になり、逆に言えば、原発推進派にとっては致命的なプロ
ジェクトとなる。そんなコマイ話は置いておいて、これが世界的に展開されれば、”太陽の道
プロジェクト”、つまり、贈与経済社会=社会主義社会段階へ向かう道であり、持続可能な社
会を実現する1つのプロジェクトであると再確認しておけばよいだろう。
さて、インディエゴゴ社のこの提案をみてみよう――道路自体が太陽光で発電し、高速インタ
ーネット回線に接続することで、刻刻と変化する要求にリアルタイムで対応して道路に「情報」
を表示しつつ、雪道では除雪し、駐車場では自動車を充電し、さらには家庭用の発電所の役割
まで担うという「スマート道路」とでも言うべき道路が「Solar Roadways」です――と紹介され
ているが、全く同じ意見だ。
この「ソーラー道路」はトラック(約113トン)の重さにも耐えることができる、太陽電池
パネルのモジュール式舗装システム。これらの「太陽道路パネル」は、太陽の下で、道路、駐
車場、車道、歩道、自転車道、遊び場...文字通りあらゆる面に設置することができる。車道
や駐車場を経由して接続した家庭や企業に電力を供給することができる。この全国的なシステ
ムで、国全体(http://solarroadways.com/numbers.shtml)として使用することでクリーンな
再生可能エネルギーを作り出すことができる。電源ケーブルとデータケーブルを接続の「ホー
ム」し、道路の凍結・除雪を自動的に行うこともできる、さらに、道路の照明器、信号機や表
示灯(器)の電源を供給したできる。勿論、道路の脇に設置した充電スタンドにも供給出来る
というわけだ。
”ビバ!デジタル革命渦論”でいうところの“シームレス”であり、業界のボードレスであり
送電設備の”ダウンサイジング”や、通信線のワイヤレス化というイレージング”をさせるだ
ろう。一時は、有効利用されない地方の”政治道路"もソーラーパネルとして役立つというわけ
だから、先行開発投資整備することは喫緊の課題となるのろう。"サンロード・プロジェクト"
を実行できない世界各国の政府・行政は遅れを取ることになるだろう。これぞ、”ビバ!サン・
ロード”だ。
前作の『独立器官』のテーマ、永遠のテーマといってもいいだろうが性的関係の謎めいた― "ハル
キ・ワールドの樹海”に踏み入れ迷うことになる。ここで語られる性器などの直喩・暗喩に読者は
しばし面を喰らい、頭の中の"常識"(使い慣れた堆積した分厚い残滓)がミキシングされることに
なる。ここは恐れずに?楽しくスロー・リードしてみよう。
それから机の抽斗をひとつひとつ開けて、中に入っているものを細かく調べた。いちばん上
の抽斗には細々とした文房具や、何かの記念品のようなものが、仕切りの中に収められていた。
二番目の抽斗には主に現在使っている学科のノートが、三番目の抽斗(いちばん深い抽斗だ)
には様々な書類や、古いノートや試験の答案が入っていた。ほとんどは学校の勉強に関するも
のか、あるいはサッカーの部活動に関する資料だ。大事なものは何もない。期待していた日記
や手紙のようなものは見当たらなかった。一枚の写真すらない。それはシェエラザードにはい
ささか不自然なことに思えた。この人は学校の勉強とサッカー以外に、個人的な営みというも
のを持たないのだろうか? それともそういうものは簡単に他人の目につかない他のところに、
大事に仕舞い込まれているのだろうか?
それでも彼の机の前に座り、ノートに書かれた彼の筆跡を目で追っているだけで、シェエラ
ザードは胸がいっぱいになった。このままでは自分がおかしくなってしまうかもしれない。彼
女は興奮を冷ますために椅子から立ち上がり、床に腰を下ろした。そして天井を見上げた。あ
たりは相変わらずひっそりとしていた。物音ひとつしない。そのようにして彼女は、水底にい
るやつめうなぎに自分を同化することになったのだ。
「ただ彼の部屋に入って、いろんなものに手を触れて、あとはじっとしていただけなの?」と
羽原は言った。
「いいえ、それだけじゃない」とシェエラザードは言った。「私は彼の持ちものが何か欲しか
った。彼が日常的に使ったり身につけたりしているものをうちに持ち帰りたかった。でもそれ
は大事なものであってはならなかった。大事なものであれば、なくなったことがすぐにわかっ
てしまうでしょう。だから彼の鉛筆を一本だけ盗むことにした」
「鉛筆一本だけ?」
「そう。使いかけの鉛筆。でもただ盗むだけではいけないと思った。だってそれだとただの空
き巣狙いになってしまうじやない。それが私であることの意味がなくなってしまう。私は言う
なれば『愛の盗賊―なのだから」
愛の盗賊、と羽原は思った。まるで無声映画のタイトルみたいだ。
「だからそのかわりに何かを、そこにしるしとして後に残していこうと思った。私がそこに存
在したことの証として。それがただの窃盗ではなく、交換であったことの声明として。でも何
を置いていけばいいのか、適当な品物が頭に浮かばなかった。ナップザックや服のポケットの
中をさらってみたけど、しるしになりそうなものは何ひとつ見つからなかった。本当は何か用
意してくればよかったんだけど、前もってそんなことは思いつかなかったから……。仕方ない
からタンポンをひとつ置いていくことにした。もちろんまだ使っていない、パッケージに入っ
たままのものよ。生理が近かったから、用意して持っていたの。それを彼の机の一番下の抽斗
の、いちばん奥の、見つかりにくいところに置いていくことにした。そしてそれは私をとても
興奮させた。彼の抽斗の奥に私のタンポンがこっそり入っているということがね。たぶんあま
りに興奮したからだと思うけど、そのあとすぐに生理が始まってしまった」
鉛筆とタンポン、と羽原は思った。日誌にそう書いておくべきかもしれない。「愛の盗賊、
鉛筆とタンポン」。何のことだかきっと誰にも理解できないだろう。
「そのとき彼の家の中には、せいぜい十五分くらいしかいなかったと思う。人の家に勝手に上
がり込むなんて生まれて初めてのことだったし、おうちの人が急に帰ってきたりするんじゃな
いかとずっとどきどきしていたし、そんなに長い時間はそこにいられなかった。私はあたりの
様子をうかがってから、こっそりとその家を出て、ドアにまた鍵をかけ、鍵を玄関マットの下
の同じ場所に戻した。そして学校に行った。彼の使いかけの鉛筆を大事に持って」
シェエラザードはそのまましばらく□を閉ざしていた。時間を遡り、そこにあったいろんな
ものごとをひとつひとつ現認しているようだった。
「それから一週間ばかり、私はこれまでになく満ち足りた気持ちで日々を送ることができた」
とシェエラザードは言った。「彼の鉛筆を使ってノートにあてもなく字を書いた。その匂いを
嗅いだり、それにキスしたり、頬をつけたり、指でこすったりした。ときどき舌をからめてし
ゃぶったりもした。書いていれば鉛筆がだんだん短くなっていくし、もちろんそれはつらいこ
とだったけど、でもそうしないわけにはいかなかった。短くなって使えなくなったら、また新
しいものを取りに行けばいい。私はそう思った。彼の机のペン立てには、使いかけの鉛筆がま
だたくさんあった。そして彼はそれが一本減ったことも知らない。机の拍斗の奥に私のタンポ
ンが入っていることもたぶん知らない。そう思うと私はすごく興奮した。腰がむずむずするよ
うな不思議な感覚があった。私はそれを抑えるために、机の下で膝をごしごしすりあわせなく
てはならなかった。たとえ現実の生活で、彼が私に目をくれなくても、私の存在になんかほと
んど気づいていなかったとしても、それでちっともかまわないと思った。私は彼の知らないう
ちに、彼の一部をこっそりと手に入れているんだから」
「なんだか呪術的な儀式みたいだ」と羽原は言った。
「そう、ある意味ではそれは呪術的なおこないだったかもしれない。あとになってたまたまそ
の手の本を読んでいて、思い当たることがあった。でもそのときはまだ高校生だったし、そこ
まで深いことは考えなかった。私はただ自分の欲望に押し流されていただけ。そんなことをし
ていると今に命取りになる。もし空き巣に入っている現場を見つかったりしたら、学校も退学
処分になるだろうし、その話が広まったら、この町に住むことだってむずかしくなるかもしれ
ない。私は自分に何度もそう言い聞かせた。でも駄目だった。私は頭がまともに働かない状態
になっていたんだと思う」
彼女は十日後に再び学校を休み、彼の家に足を向けた。午前十一時。前と同じように玄関マ
ットの下から鍵を取り出し、家の中に入った。そして二階に上がった。彼の部屋はやはり隙な
く整頓され、ベッドはぴたりとメイクされていた。シェエラザードは使いかけの長い鉛筆をと
りあえず一本手に入れ、それを自分のペン入れに大事に仕舞った。それからおそるおそる彼の
ベッドに身を横たえてみた。スカートの裾を整え、両手を揃えて胸に置き、天井を見上げた。
このベッドで毎晩彼が眠っているのだ。そう思うと心臓の鼓動が急速に高まり、まともに呼吸
ができなくなった。空気が肺の中までしっかりと入っていかない。喉がひりひりと渇いて、息
をするたびに痛む。
シェエラザードはあきらめてベッドから起き上がり、ベッドカバーを引っ張って乱れを直し、
それからまたこの前と同じように床に腰を下ろした。そして天井を見七げた。ベッドに横にな
ったりするのはまだ早すぎる、と彼女は自分に言い聞かせた。それは私にはあまりにも刺激が
強すぎる。
シェエラザードは今回、半時間ばかりその部屋の中にいた。彼のノートを抽斗から出して一
通り目を通した。彼の書いた読書感想文も読んだ。夏目漱石の『こころ』について書いたもの
だ。それは夏休みの課題図書だった。いかにも成績の優秀な生徒らしい、丁寧な美しい字で原
稿用紙に書かれていて、見たところ誤字脱字もなかった。評価は「優」になっていた。当然だ。
こんな素敵な字で文章を書かれたら、どんな先生だって、たとえ内容をまったく読まなくても、
黙って優をあげてしまいたくなるだろう。
それからシェエラザードは洋服ダンスの抽斗を開け、中に入っているものを順番に見ていっ
た。彼の下着や靴下。シャツ、ズボン。サッカー用のウェア。どれも几帳面にきれいに折りた
たまれていた。汚れが残ったり、擦り切れたりしている衣服はひとつもなかった。
どれも清潔に管理されている。彼がたたむのだろうか。それとも母親がそうするのだろうか。
たぶん母親だろう。彼女は毎日彼のためにそういうことができる母親に、強い嫉妬を覚えた。
シェエラザードは抽斗に鼻を突っ込むようにして、ひとつひとつの衣服の匂いを嗅いでいっ
た。丁寧に洗濯され、しっかりと太陽に干された衣服の匂いがした。無地のグレーのTシャツ
を一枚抽斗から取り出し、それを広げ、顔をつけた。わきの下に彼の汗の匂いがしないかと思
って。しかし匂いはなかった。それでも長いあいだ彼女はそのシャツにしっかりと顔をつけて、
鼻から息を吸い込んでいた。彼女はそのシャツを手に入れたいと思った。しかしそれはおそら
く危険すぎる。すべての衣服がこれほど几帳面に整理され、管理されているのだ。彼は(ある
いは彼の母親は)抽斗の中のTシャツの数を細かく記憶しているかもしれない。一枚少なくな
っていたら、ちょっとした騒ぎが持ち上がることだろう。
シェエラザードは結局そのシャツを持って行くことをあきらめた。元通りきれいにたたみな
おし、抽斗の中に戻した。用心深くならなくてはいけない。危険を冒すわけにはいかない。シ
ェエラザードは今回は鉛筆のほかに、抽斗の奥に見つけたサッカーボールをかたどった小さな
バッジを持って行くことにした。小学校時代に入っていた少年チームのものらしかった。古い
ものだし、とくに大事なものにも見えない。なくなっても彼はおそらく気がつかないだろう。
あるいは気がつくまでに時間がかかるだろう。ついでに、いちばん下の抽斗の奥にこのあいだ
隠しておいたタンポンがまだあるかどうか、確かめてみた。それはまだそこにあった。
村上春樹 著『シェエラザード』(MONKEY Vol.2 )
この項つづく