【目がテン! 近頃のロボット技術】
町内の清掃ボランティア作業を終え、シャワーを浴びテレビを観ていると「所の目がテン」
と言う番組で、福島第一原発で活躍したという、砂利や瓦礫の上でも走行が可能で、テレメ
トリー型ストリートビュー・ロボットが紹介されていた(所ジョージが、25の機能を備えた
アシスタントロボットの開発を計画している古田貴之千葉工業大学・未来ロボット技術研究
センター長がゲスト出演し「世界唯一の性能を持つロボットを開発に成功した」と紹介)。
所ジョージは「どんな所でも行けるのがすごいね」と話していた。下写真の最新型の災害対
応移動ロボットが登場。水陸両用で、階段を登る姿を披露。
理由で「世の中に喜ばれるロボットを作りたい」と語った。発明事例として「脚のついたイ
ス型ロボット」の原型を開発し、斜体の下に取り付けたセンサーで障害物を避けて進み、真
横に動くこともできる。歩道や街灯などにセンサーを設置し、自動で動ける計画も進んでい
る。なかでも、車いすロボットがスタジオに登場し、俳優のユージが試乗し、コントローラ
ーを用いて軽々と操作してみせたほか、センサーが障害物を認識し、ぶつからない様に考え
て自動で移動する未来の自動車ロボットは、脚のそれぞれが人工知能を持ち、環境に合わせ
動き回ることができ、車体の中にある頭脳のようなロボットで8本脚の動きをまとめ、昆虫
や動物のような動きができる(ギリシャ神話で出てくる人獣像のようなもの?)。古田貴之
所長は「環境にもやさしい」ことをアッピールし「人が乗れるサイズの乗り物も作っている」
と語っている(下図は最新ロボット開発のもとになった新規考案例)。クルージャパンは、
世界トップランナーであることはこの番組からも窺い知ることができるぞ!と感心した次第
(『復活 ジャパン・アズ・ナンバーワン』)。
特開2007-185761 歩行体 特開2011-246123 車
特開2011-059020
三次元姿勢推定装置、三次元姿勢推定方法及び三次元姿勢推定プログラム
要素として不可欠なロボット技術-次世代を担うキーテクノロジーを研究開発するために必
要な人材が集まり、2003年6月にfuRoを設立。アスリートロボットとも言われる、高い運動性
能を持つ小型ヒューマノイド「morphシリーズ」、未来の乗用車のプロトタイプ「Hallucig-
enia01」とその後継機「HallucII」、操縦システム「Hull」「WINDロボットシステム」、可
搬重量世界最大級の大型二足歩行ロボット「core」などの研究開発を行ってきており、従来
の概念を超えた未来機械を創造し、人類のための新たなライフスタイルを提案、実現するし
ている。巻頭の「f-palette」(写真をクリック)は、fuRoが千葉工業大学未来ロボティクス
学科の1年生の授業「体験演習」のために開発したオリジナルキットだという。電子工作初
心者の方から研究レベルまで、幅広く使っていただける仕様になっているから、将来、ロボ
ット研究開発に従事したい方がコンタクトをとれば入手できるかもしれない。

●パワーコンディショナ 変換効率99パーセント時代
ロニクスを駆使し、メガソーラー発電における課題として、日射量の減少や温度上昇による電圧低下
と、それに伴う変換効率低下などの対策に、パワーコンディショナの昇圧回路搭載による電力損失を
解決したパワーコンディショナを販売開始。(1)昇圧回路にオールSiCモジュールを採用すること
で、スイッチング損失と導通損失を大幅に低減。業界最高のパワーコンディショナ変換効率
98.8%を実現し、従来機種:98.5%より0.3%↑。(2)さらに、オールSiCモジュールを採
用することで回路を小型化(従来機種に比べて盤のサイズを20%縮小)。これにより収納盤
を分割することなく輸送でき、施工に係わるコストを削減できる。(3)また、屋内型て業
界最大の出力容量1000kWを実現。大容量化により、中小容量のパワーコンディショナを複数
台設置する場合と比べて、トランスや空調などパワーコンディショナに必要な周辺機器の台
数を減らしコストを削減できるとのこと。

もっとも、耐久性、堅牢性などの劣化減衰データがないので、ここでは総合評価できないが、
後 1.2%で百%になるというから太陽光発電システムの一角は技術制圧できたことになり、
残りの最優先課題のモジュール変換効率25%超を達成すれば、原発フリー時代の扉を開放
できる(下図、新規考案をクリック)。
オプテックス(滋賀県)は、中規模以上の駐車場向けLED照明発売。寿命は何と!5万時間
(連続点灯で5.7年、10時間/日として、13.7年)。中規模(駐車台数15台程度)以上の屋
外月極駐車場、時間貸駐車場、店舗駐車場などパーキング専用のLED照明で、駐車場の規模
に応じて選べる2タイプあり、消費電力は6,000lmタイプが59W、11,000lmタイプが110W。
発光効率は100lm/W、LED寿命は5万時間。配光は汎用性の高い100°サークルを採用。販売
開始は6月4日。夜間の駐車場や道路などに設置されている「常夜灯」は、防犯や安全性の
確保に繋がると共に、駐車場管理者にはLEDによる維持管理費の削減や省エネ効果に貢献。
今回発売するLED照明は、スリムな外観で、設置もポール用、壁付用と取付環境によって対
応できるという。
特開2012-174663 調光照明装置および調光照明システム
日立製作所は、植物工場内の生育環境のデータや栽培設備の制御データを収集し、リアルタ
イムで見える化するとともに、生育環境や栽培設備を遠隔で制御する「植物工場生産支援ク
ラウドサービス」を開発、本日より提供開始する。同サービスは、植物の生育環境を制御す
ることで、生産する植物の高品質化と生産性の向上を図り、生産管理や経営視点での意思決
定を支援するという。価格は標準構成で月額1万8,000円。この背景に、日本では、農業従事
者の減少、食料自給率の低下などが重要な社会的課題と認識されており、世界的には、急激
な人口増加や異常気象による不作などでの食糧危機が懸念されている。このような背景のも
と、野菜などの植物の計画的な生産を実現するため、施設内で植物の生育環境を適正に制御
する植物工場での生産が拡大しており、植物の生育状況や栽培設備の稼働状況を遠隔で監視
するなど、管理の効率化や、各種のデータ分析による生産の高度化などを実現するサービス
に応えるという。
『アゴニスト巡礼の明日』などで植物工場についてブログ掲載してきたけれど、これで本格
的な実用段階にある。日立製作所でも下図のこの管理制御システムの開発研究がなされてき
た。ここでもLED技術や情報通信技術といった"デジタル革命渦論"の応用展開が急テンポ
で伸長していることがうかがえるというわけだが、以前にも提案したが、消費者参加型"植
物工場"アプリの付加開発を願う。
渡会は、僕にエンディング・ノートの未使用の高価なスカッシュ・ラケットを託し、あっけなく―
それは決して他人に計り知れぬ深淵を抱え、そして、ブラック・ホールに飲み込まれるように―他
界してしまう。そして「彼は間違ったボートに繋がれていたのだ」と、奥歯を噛めうめくように死
の意味付けを-すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わ
っているという命題に応えるかのように-僕は腑に落とす。読み終えて、蕭々とした結末、宿命に
絞り出したかのような、しかし自然に一涙が頬を蔦って落ちた。蓋し名作。
「普段は七十キロを超えていた人ですから、半分以下の体重になっていたのです。潮が引いた
海岸の岩場のように、あばら骨が浮かび上がっていました。目を背けたくなるような姿でした。
それは僕に昔記録映画で見た、ナチの強制収容所から救出されたばかりの、ユダヤ人の囚人の
痩せ衰えた姿を思い出させました」
強制収容所。そう、彼はある意味では正しい予見を持っていたのだ。自分とはいったいなに
ものなのだろう、最近になってよくそう考えるんです。
青年は言った。「医学的に言えば、直接の死因は心不全です。心臓が血液を送り出す力を失
ってしまったのです。でも僕に言わせれば、それは恋する心がもたらした死です。文字通りの
恋煩いです。僕は何度も彼女に電話をかけ、事情を説明してお願いしました。まさに平身低頭
して懇願したんです。一度でいいから、ほんの短い時間でもいいから、渡会さんに会いにきて
いただけませんか。このままでは先生はとても生命がもたないでしょう。でも彼女はやってき
ませんでした。もちろんその女性が目の前に姿を見せたら、先生が死なずにすんだとまでは思
いません。先生は既に死ぬ覚悟を決めていました。でもひょっとしたら、そこで奇跡のような
何かが起こったかもしれません。あるいは先生はもっと違う気持ちを抱いて死んでいけたかも
しれません。それとも彼女の姿は先生をただ混乱させただけかもしれません。それは先生の心
を余計に苦しめることになったかもしれません。そのへんはよくわかりません。正直言って、
この件に関して僕にはよくわからないことばかりです。でもわかっていることがただひとつあ
ります。それは恋するあまり食べ物が喉を通らなくなり、それで実際に命を落とした人なんて
世間にはまずいないということです。そう思いませんか?」
僕は同意した。たしかにそんな話は他に耳にしたことがない。そういう意味では渡会さんは
きっと特別な人だったのだろう。僕がそう言うと、後藤青年は両手で韻を覆い、しばらくのあ
いだ声を出さずに泣いた。彼は渡会医師のことが心から好きだったようだ。慰めてやりたかっ
たが、実際に僕にできることは何もなかった。少しあとで彼は泣きやみ、ズボンのポケットか
ら清潔な白いハンカチを出して涙を拭った。
「申し訳ありません。つまらないところをお見せしました」
誰かのために泣くのはつまらないことじゃないと僕は言った。とくに亡くなった大事な人の
ためであれば。後藤青年は僕に礼を言った。「ありがとうございます。そう言っていただける
と、少し救われます」
彼はテーブルの下からスカッシュ・ラケットのケースを取って、僕に差し出した。ケースの
中にはブラックナイトの新製品が入っていた。高級品だ。
「これを渡会先生から預かりました。予約通販で注文されていたのですが、届いたときには先
生にはもうスカッシュをするような気力はなくなっていました。谷村さんに差し上げてくれと
頼まれました。先生は最期に近くなって、唐突に一時的に意識を取り戻されたみたいに、必要
なことをいくつか私に言い残しました。このラケットのこともそのひとつです。もしよろしけ
ればお使いになって下さい」
僕は礼を言ってラケットを受け取った。そしてクリニックはどうなったのかと尋ねてみた。
「とりあえず休業中ですが、早晩閉鎖するか、あるいは居抜きの形で売却することになると思
います」と彼は言った。「もちろん事務の引き継ぎもありますし、僕もまだしばらくはお手伝
いをさせていただくことになりますが、その後のことはまだ決めていません。僕にも少しばか
り心の整理が必要です。今のところ、まともにものが考えられないような状態が続いています」
その青年がショックから立ち直り、これからの人生をうまく生きていくことを僕は願った。
別れ際に彼は言った。
「谷村さん、厚かましいようですが、ひとつ僕からお願いがあります。どうか渡会先生のこと
をいつまでも覚えていてあげて下さい。先生はどこまでも純粋な心を持った方でした。そして
僕は思うのですが、僕らが死んだ人に対してできることといえば、少しでも長くその人のこと
を記憶しておくくらいです。でもそれは□で言うほど簡単ではありません。誰にでもお願いで
きることではありません」
そのとおりだと僕は言った。死んだ誰かのことを長く記憶しているのは、人が思うほど容易
いことではない。できるだけ彼のことを思い出すように努める。僕はそう約束した。渡会医師
の心が実際にどこまでも純粋であったのかどうか、それは僕には判断しかねるところだが、彼
がある意味、普通ではない人物であったのは確かなことだし、記憶しておくだけの意味はある
だろう。そして我々は握手をして別れた。
そのようなわけで、言うなれば渡会医師のことを忘れないために、僕はこの文章を書いてい
る。僕にとっては文章にして残しておくことが、何かを忘れないための最も有効な手段だから
だ。関係者に迷惑をかけないために、名前や場所は少しずつ変えてあるが、出来事自体はほぼ
そのとおり、実際にあったことだ。後藤青年がどこかでこの文章を読んでくれればと思う。
渡会医師に関して、もうひとつよく覚えていることがある。どのような流れでそんな話にな
ったのか、今となっては思い出せないのだが、あるとき彼は僕に向かって女性全般についてひ
とつの見解を□にした。
すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている、
というのが渡会の個人的意見だった。どんな嘘をどこでどのようにつくか、それは人によって
少しずつ違う。しかしすべての女性はどこかの時点で必ず嘘をつくし、それも大事なことで嘘
をつく。大事でないことでももちろん嘘はつくけれど、それはそれとして、いちばん大事なと
ころで嘘をつくことをためらわない。そしてそのときほとんどの女性は顔色ひとつ、声音ひと
つ変えない。なぜならそれは彼女ではなく、彼女に具わった独立器官が勝手におこなっている
ことだからだ。だからこそ嘘をつくことによって、彼女たちの美しい良心が痛んだり、彼女た
ちの安らかな眠りが損なわれたりするようなことは-特殊な例外を別にすれば―――まず起こ
らない。
彼にしては珍しくきっぱりした口調だったので、そのときのことはよく記憶している。僕も
渡会氏のその意見には、基本的に賛同せざるを得ないわけだが、そこに含まれた具体的なニユ
アンスはいくぶん違っているかもしれない。たぶん僕と彼はそれぞれ異なった、個別的なと登
攀ルートを辿って、あまり心楽しくもない同じ山頂にたどり着いたということになるのだろう。
彼は死を前にして、自分のその見解が間違っていなかったことを、おそらくは歓びもなく確
認していたに違いない。言うまでもないことだが、僕は渡会医師をとても気の毒に思う。彼の
死を心から悼む。食を断ち、飢餓に苛まれて死んでいくのはずいぶん覚悟のいったことだろう。
肉体的にも精神的にも、その苦しみは察するに余りある。しかし同時に、自らの存在をゼロに
近づけてしまいたいと望むほど深く一人の女性を――それがどんな女性であったかはさておき
――彼が愛せたということを僕はある意味、羨ましく思わなくもない。もしそうしようと思え
ば、彼はこれまでどおりの技巧的な人生を継続し、まっとうすることだってできたのだ。同時
に何人もの女性たちと気軽に交際し、芳醇なピノ・ノワールのグラスを傾け、居間のグランド・
ピアノで『マイ・ウェイ』を弾き、都会の片隅で心地良い情事を楽しみ続けることもできたの
だ。にもかかわらず彼は食べ物も喉を通らなくなるほど痛切な恋に落ち、まったく新しい
世界に足を踏み入れ、今まで見たこともない光景を目にし、その結果自らを死に向けて追い立
てることになった。後藤青年の言葉を借りるなら、無に近接させていくことになった。どちら
の人生が彼にとって真の意味で幸福だったのか、あるいは本物であったのか、僕には判断でき
ない,その年の九月から十一月にかけて渡会医師の辿った運命は、後藤青年にとってそうであ
るのと同じように、僕にとってもやはりわからないことだらけなのだ。
MY WAY - PIANO-Version by Gundolf-G Quast, Germany
僕はまだスカッシュを続けているが、渡会が亡くなったあと、引っ越しをしたせいもあって
ジムを変えた。新しいジムではだいたい専属のパートナーを相手にすることにしている。料金
はかかるが、その方が気楽といえば気楽だ。渡会医師からもらったラケットはほとんど使って
いない。僕には少し軽すぎるという理由もある。そしてその軽さを手に感じると、どうしても
痩せ衰えた彼の身体を思い浮かべてしまうことになる。
彼女の心が動けば、私の心もそれにつれて引っ張られます。ワープで繋がった二艘のボート
のように。綱を切ろうと思っても、それを切れるだけの刃物がどこにもないのです。
彼は間違ったボートに繋がれていたのだと、我々はあとになって思う。しかしそんなに簡単
に言い切ってしまえることだろうか? 思うのだが、その女性が(おそらくは)独立した器官
を用いて嘘をついていたのと同じように、もちろん意味あいはいくぶん違うにせよ、渡会医師
もまた独立した器官を用いて恋をしていたのだ。それは本人の意思ではどうすることもできな
い他律的な作用だった。あとになって第三者が彼らのおこないをしたり顔であげつらい、哀し
げに首を振るのは容易い。しかし僕らの人生を高みに押し上げ、谷底に突き落とし、心を戸惑
わせ、美しい幻を見せ、時には死にまで追い込んでいくそのような器官の介入がなければ、僕
らの人生はきっとずいぶん素っ気ないものになることだろう。あるいは単なる技巧の羅列に終
わってしまうことだろう。
自ら選んだ死の間際に渡会が何を考え、思いなしていたのか、もちろん知るすべもない。し
かしその深い苦悩と苦痛の中にあっても、たとえ一時的にではあるにせよ、僕に未使用のスカ
ッシユ・ラケットを遺すことを伝えるだけの意識は戻せたようだ。あるいは彼は何かしらのメ
ッセージをそれに託したのかもしれない。自分がなにものであるか、末期近くになって彼には
答えらしきものが見えてきたのかもしれない。そして渡会医師はそのことを僕に伝えたかった
のかもしれない。そういう気もする。
村上春樹 著『独立器官』(文藝春秋 2014年 3月号)