人体や物体が発する電波「ミリ波」をキャッチし、衣服の中などにある危険物を探知する装置の
実証実験――金属探知機では発見できない液体や粉末の危険物の特定に役立つ、文部科学省の犯
罪・テロ対策技術実用化プロジェクト――が中部国際空港で始まっことが報じられた。この探知
装置は「ミリ波パッシブイメージング装置」という(下図参照)。高さ約1・2メートルの箱型
の機械の前で5秒ほど静止すると、装置が人体や物体の出すミリ波の違いを読み取り、画像化す
る。海外で実用化されているミリ波照射装置とは異なり、機械からミリ波を出さないため、人体
への影響がない。この研究は東北大の澤谷邦男名誉教授らのグループとマスプロ電工、中央電子
の3者で実施。中部空港が保安検査場内の一角を実験用に提供する。
特開2013-096811 ミリ波撮像装置 マスプロ電工株式会社 他
上の提案は、撮像時に被写体2が位置する被写体配置領域を挟んで、撮像装置本体10とは反対側
に後方遮蔽板4を設け、撮像装置本体10の撮像用開口部22の周囲には、後方遮蔽板4と対向する
よう、前方遮蔽板40を設ける。後方遮蔽板4は、電波吸収体にて構成され、空調装置8にて一定
温度(低温)に保持される。また、前方遮蔽板4は、金属板にて構成され、後方遮蔽板4から放
射された熱雑音を被写体2に向けて反射するよう、後方遮蔽板4側板面が内側に湾曲しているこ
とで、被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより、被写体を撮像するミリ波
撮像装置において、撮像装置側から被写体に向けて放射される熱雑音の影響を受けることなく、
撮像画像から被写体に隠れた物品を精度よく検出できる構成になっている。
ミリ波と聞けば、NRD((Non-Radiative Dielectric waveguide)ガイドを発明した米山務元東北大学電
気通信研究所教授・現(株)エムメックス代表取締役を思い出すが、ミリ波とは波長1~10mm、周
波数30~300GHzの電磁波で、EHFとも呼ばれ、現在日本では、60GHzの周波数を用いて無線通信に
用いる準備を行っている。また極めて狭い指向性も可能で、車載レーダーや今後空港で導入が進
むとされている衣服の下を透視する全身スキャナー等に用いられている。また長野県にある国立
天文台野辺山宇宙電波観測所などでは宇宙からやってくるミリ波の観測が行われており、星の誕
生やブラックホールの研究で成果があがっている。このように、HDMIやGビットEthernetなど、
家庭にGビット/秒を超える高速インタフェースが登場し、これらを無線化の技術開発が活発化し
その有力候補の一つに「ミリ波」がある。ミリ波通信は,60GHzや76GHzといったいわゆる「ミ
リ波帯」を使って無線伝送を行うもので、ここには免許無しで利用できる帯域が,日本や米国で
7GHz幅,欧州では9GHz幅と非常に広く開放されており、広い帯域を使えることから,比較的単
純な変調方式を用いた場合でも,2~3Gビット/秒の高速無線インタフェースを実現できる能力を
秘める。
しかしこれまで、ミリ波を使った家庭向けのアプリケーションはなかなか立ち上がらない背景に「コストの
高さ」があった。高周波の無線技術のため,チップの製造技術に高コストの特殊なプロセスが必要だった
り、特殊な受動部品やパッケージが必要だったりして、送受信回路などの製造コストが高いため、用途が
限定され、その結果量産効果も得られず、製造コストが高いままとなる傾向があったものの、ここにきて、
CMOSプロセスでミリ波用送受信チップが実現。日米の複数の半導体メーカーのCMOS技術によ
るミリ波用ICの研究開発が進み、比較的安価なCMOSプロセスの利用で、チップの製造コストが
下り、HDMIの無線化など、高い伝送速度が必要なアプリケーションの登場も、CMOS技術のミ
リ波への適用を後押したといわれている。
CMOS技術は、これまで数多くの無線アプリケーション創出させる重要な役割を果たしてきた。
無線LANやBluetooth、最近では携帯電話、そしてGPSまでCMOS技術で送受信チップが実現され、
送受信回路のコスト低減に寄与。さらに、マイクロコントローラなどロジック回路との1チップ
化を実現した。自動車用レーダ、無線LAN、ミリ波レーダー、ボディースキャナー、移動通信な
どで注目を浴びているミリ波だが、家庭向けの用途も開拓されてきている。
●ギガビット無線LAN WiGig/IEEE802.11adとムラタの取り組み(村田製作所)
●ミリ波(60GHz帯)利用方法のイノベーション-非接触高速伝送技術-NTT 未来ねっと研究所
準ミリ波を含む高周波利用は、広大な帯域を有するため、常に高速無線通信への利用が試みられ
てきたが、この周波数帯は距離当たりの減衰が大きく、光学的な伝播特性を有することから、回
折が全く期待できないため、大出力でハイゲインのアンテナを使った固定通信に利用される試み
が多かった。無線LANの慢性的な干渉を回避するために、IEEE802.11adの議論が2000年代に始ま
ってからは、アレイアンテナを用いた「Point to Multi Point」という利用方法が検討され出したが、
伝播特性は変えようがない。ミリ波の新たな利用方法に、ごく近傍(1cm以下)の通信に限定する
ことで、ミリ波の伝播特性を長所に転換す提案がなされている。
信頼性を考慮すれば、車載LANで無線通信はあり得ない。そんな常識を覆す技術が「電波ホース」
だ。金属被膜した中空の管(ホース)の両端に60GHz帯を使う無線機を取り付けるというもので、
有線ケーブルよりも高信頼で軽量の通信システムを実現できる。
そういえば、「目と目で通じ合う そうゆう仲になりたいわ」という歌詞があった。工藤静香が
歌う、中島みゆきの手による、『MUGO・ん・・・・色つぽい』だが、ミリ波はそのメディアだっ
たのだと気付くには26年もかかったのか? 面白いね、技術って。