トマス・フジワラ
Tomas Fujiwara
マサチューセッツ州ボストンに生まれ育つ。1994年、17歳でニューヨークへ移り、現在までブルックリンに在住。バンド・リーダー及び数々のアーティストとの共演プロジェクトで、現在ニューヨーク・シーンで最も精力的に活動するドラマーのひとりである。
自己のプロジェクト:トマス・フジワラ&ザ・フック・アップ、コルネット奏者テイラー・ホ・バイナムとのデュオ、即興カルテット、サーティーンス・アセンブリー(バイナム、メアリー・ハルヴァーソンg、ジェシカ・パヴォーヌvln)。
主な共演者:マタナ・ロバーツ、アミール・エルサファー、マット・ミッチェル、アンソニー・ブラクストン、ラズウェル・ラッド、ティム・バーン、マーティ・アーリッチ、マイク・リード等。
【Disc Review】Tomas Fujiwara & The Hook Up / After All Is Said』
482 Music 482-1089
Michael Formanek (b)
Mary Halvorson (g)
Brian Settles (ts, fl)
Jonathan Finlayson (tp)
Tomas Fujiwara (ds)
1. Lastly
2. The Comb
3. For Tom and Gerald
4. Boaster's Roast
5. Solar Wind
6. The Hook Up
7. When
All compositions by Tomas Fujiwara
Recorded February 16, 2014 at Systems Two, Brooklyn, NY
Engineered, Mixed, and Mastered by Jon Rosenberg
Produced by Tomas Fujiwara
Executive Producer: Michael Lintner
Cover Photo: Melanie Minichino
リズムの時代をリードする豪腕ドラマーのエロス
集団(即興)演奏の要は、やはりドラマーなのではなかろうか。極論をいえば、他の楽器、例えばギターやサックス、キーボードは個人的にテクニックを磨き、型破りなスタイルや独自の演奏哲学を提示することで、集団の中で目立つことは可能だが、他者を巻き込み、全員を一つの方向に導くことが出来るかどうかは疑問である。逆に自己主張の強いソリストばかりの集団は、侃々諤々の論争や利害衝突に明け暮れるばかりで、共同製作することすら危うい烏合の衆になりかねない。
しかし、そんな集団を後方からじっと俯瞰するドラマーなら、スネアをBANG!と叩くだけで、その場の空気を一変させることが出来る。音量だけではなく、どっしりとした存在感でメンバー全員の心を支えることは、ドラマーならではの資質と言えるだろう。つまりプレイング・マネージャーとして、リーダーとプレイヤー両方の才能を備えることがドラマーの本懐なのである。
ボストン生まれのトマス・フジワラは7歳の頃にバディ・リッチ&マックス・ローチの『リッチVSローチ/2大ドラマーの対決』を聴いてドラマーを志したという。スポーツ好きの少年にとって、誰よりも激しく大音量でドラムを叩くことは、バスケットボールやフットボールと同じようにヒーロー願望を掻き立てられたのだろう。
しかしトマス少年は成長し、試合を重なることでチームワークの大切さを学び、目立つだけがドラマーではないことを知った。17歳でニューヨークに移り住み、バーやレストランの箱バンで生計を立てながら、自分の音楽を追求した。2008年にメアリー・ハルヴァーソン(g)、ブライアン・セトルズ(sax)、ジョナサン・フィンレイソン(tp)といった即興音楽の猛者を集めて結成したのがザ・フック・アップ。「接続」を意味するバンド名通り、多分にスタンドプレイヤー的資質を持つ曲者揃いのメンバーを、トマスのドラムで接続し交歓させることで、トマスの手になる楽曲に命を吹き込み、ソロでは成しえないバンドならではのケミストリーを生み出し、新たな音楽の地平を描き出している。
トマスの役割は、メンバーの自由な精神を最大限に尊重しつつ、要所を締めて演奏の行方をコントロールすること。バスケットの試合に例えれば、メンバーに好き勝手にドリブルやパスを指示しつつ、最終ゴールは自分が決める。少年時代のドラマーの夢に近づいている自信のほどは、CDジャケットの堂々としたポートレートに明らかだ。
「Hook Up」にはスラングで「キスをする」「いちゃいちゃする」「愛を交わす」という意味があるという。そう思って5人の自由奔放な演奏を聴きなおすと、恋愛ゲームのような甘い香りも嗅ぎ取れる。汲めども尽きぬインスピレーションの泉のような音楽である。
(剛田武 2015年4月13日記)
▼Tomas Fujiwara & The Hook-Up - Vision Festival 18 - Roulette, Brooklyn - June 15 2013
ドラマーの
二の腕は
色っぽい
▼Thumbscrew: Live @ The Windup Space, Baltimore, 1/6/2012, (Part 4)
Thumbscrew:Michael Formanek (b) / Mary Halvorson (g) / Tomas Fujiwara (ds)