A Challenge To Fate

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【リズムの時代】第3回「弛緩の時代や何ぞ脈動の歓びに如かん」視姦者の私感的ジャズ・ドラム史観

2015年05月17日 04時01分08秒 | 素晴らしき変態音楽

(Han Bennink)

ブラスバンドでフルートやサックスを吹いていた中高生の頃、ナット・ヘントフの小説『ジャズ・カントリー』に感化されてモダン・ジャズの名盤を何枚か聴いたが、今ひとつのめり込めなかった。その理由のひとつはドラムにあった。ロックやパンクの、ヴォーカルやギターを喰ってやる!という気迫に満ちたドラムに比べ、クールな表情で4ビートを刻むばかりのジャズ・ドラムは退屈でしかなかった。学生時代にやっていた自分のロック・バンドのドラマーが欠席した時に、ジャズ研のドラマーにヘルプを頼んだら、あまりの音量とパワー不足に唖然としたこともあった。


(Sunny Murray)

そんな筆者のジャズ・ドラム観をひっくり返したのが、アルバート・アイラーの『スピリッツ・リジョイス』に於けるサニー・マレイのプレイだった。黒人霊歌を好き勝手に吹き散らすホーン・トリオや心ここに在らずの二人のベースも凄いが、突然思い出したように「タン!タン!タン!」とスネアを連打するマレイの演奏は、祝宴で浮かれる精霊たちを地獄の底から手招きするような不気味なオーラに満ちていた。また、1982年のミシャ・メンゲルベルク&ICPオーケストラの来日公演で観たハン・ベニンクの、ドラム・セットを叩き壊さんばかりのパワーと、おもちゃをばら撒き床をスティックで叩きまわるコミカルなプレイにも衝撃を受け、即興音楽におけるドラムの自由度と可能性に興味を持ち始めた。



ドラムに注目してレコードを聴くと、ドラマーのもう一つの個性が見えてきた。グループの統率者としての役割である。リズム・キープやグルーヴ感といった演奏面だけではなく、精神面での支柱としての才能を持つドラマーは少なくない。アート・ブレイキー、エルヴィン・ジョーンズ、トニー・ウィリアムス、ジャック・ディジョネット、富樫雅彦といったドラマーは、優れた演奏家であるだけでなく、自己のグループやプロジェクトのリーダーとして独創的な音楽をクリエイトしてきた。



昨年1月、クラブ・ジャズの最新型として人気のロバート・グラスパー・エクスペリメントのベーシスト、デリック・ホッジの来日公演を観た。トランペットとツイン・キーボードのアンサンブルはかつてのフューチャー・ジャズに通じるが、度肝を抜かれたのがドラマーの異常なプレイだった。ダンス・ビートだが、アブストラクトなドラミングに気を取られると脱臼しそう。ヒップホップやR&Bの要素以上に、革命的なリズム・センスこそ新世代ジャズの肝ではなかろうか、と目から鱗の思いがした。



筆者がニューヨーク即興シーンに関心を持ったきっかけも、メアリー・ハルヴァーソンのロック・バンド、ピープルでのケヴィン・シェイの変態的なドラミングだった。シェイの名前でYouTube検索して見つけたニューヨークの最新ライヴ動画で、数々のユニークなドラマーの存在を知った。ケヴィン・シェアやウィーゼル・ウォルターなど破天荒なハードコア・スタイルだけではなく、トマ・フジワラやハリス・アイゼンシュタッドなど、作曲センスを備えたバンドリーダーとして活動するドラマーもいる。それぞれがドラム演奏の未知の可能性を追求する求道者でもある。音楽スタイルや常識に囚われず自由な精神で新たな時代のリズムを刻むドラム演奏家の存在が、シーンを面白くしていることは間違いない。

<NY即興シーンの個性派ドラマーたち>
▼People feat. Kevin Shea - Likelihood of Bang

People / 3x a Woman: The Misplaced Files

▼Weasel Walter drum solo at the Lydia Lunch show - Geel - March 30, 2015

Chris Pitsiokos, Weasel Walter, Ron Anderson / MAXIMALISM

▼Tomas Fujiwara Trio "Insomniac's Delight" @ Cornelia Street Café 10-23-14

Tomas Fujiwara & The Hook Up/After All Is Said

▼Harris Eisenstadt September Trio Featurette

Harris Eisenstadt/Golden State II

▼Andrew Drury - Drums for Warren! benefit - Brecht Forum, NYC - Jan 20 2013

Andrew Drury/The Drum & Content Provider

▼Mike Pride - Solo Drums - at Freddy's Back Room, Brooklyn - Oct 22 2013


終日叩くか
ゆっくり叩くか
叩かぬか

▼Todd Rundgren - Bang the Drum All Day


▼Emmylou Harris ~ Bang the Drum Slowly


▼The Waterboys / Don't Bang The Drum


[2015/5/17 15:00 マーク・ラパポート/じゃずじゃ様のアドバイスで、アーティストの仮名表記を修正しました]
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