秋風が吹きよるが長くなる芸術の秋の夜長の作業用BGMは何がいいだろう。感情的なロックや情念的なジャズは鬱陶しい。アブストラクトなフリー・ミュージックはイディオムに陥るまいとする意志が強くて疲弊する。フィールド・レコーディングの自然音は天然過ぎてもの足りない。そんなときパリで購入したピエール・アンリのLPを聴いたらとてもしっくり来た。
「具体音楽」とも訳されるミュジック・コンクレートは、録音された音を用いて制作した音楽を指し、ラジオ局の技師だったP・シェフェールがフランスで1940年代に始めたものである。楽音ではなく、人や動物の声、自然の音や都市の騒音などを録音し、電気的・機械的に変質させ、組み合わせて制作された。(現代美術用語辞典ver.2.0 - Artscapeより)
素材は自然の音であれ人工の音であれ、発生源から分離され「孤立させられた」音なので一切の感情を持たない。作曲家はそれを再構成して作品として提示するが、自らの意志で音自体を創出する訳ではないので、音に過度な感情や情念が入り込むことはない。意志を持たない「音」が無垢なままで切断され接続される具体音楽は、冬の冷気の予感に戦く秋の夜に、研ぎ澄まされた神経をうるかすのに最適である。
筆者にとってミュージック・コンクレートの最高峰はピエール・アンリだが、今回は入門編として最近入手したコンピレーションLPを紹介したい。
『オムニバス:ミュージック・コンクレート
Various Artists – Musique Concrète
1969 / Candide – CE 31025
A1 –Pierre Schaeffer Objets Liés (New Version) 2:50
A2 –François-Bernard Mâche Terre De Feu (Second Version) 6:55
A3 –Michel Philippot Etude III 10:04
B1 –François Bayle L'Oiseau-Chanteur (Second Version) 4:04
B2 –Luc Ferrari Tête Et Queue Du Dragon (Second Version) 9:12
B3 –Ivo Malec Dahovi (Second Version) 7:15
B4 –Bernard Parmegiani Danse 4:12
Compiled By – Ilhan Mimaroglu
Compositions realized in the studios of Groupe de Recherches Musicales, O.R.T.F., Paris, France.
ピエール・シェフェール『オブジェの研究』
Pierre Schaeffer - Etude aux objets Part 1-5 (1959)
ピエール・マリー・シェフェール(またはシェッフェル、Pierre Henri Marie Schaeffer, 1910年8月14日 – 1995年8月19日)はフランスの現代音楽の作曲家。ピエール・アンリとともにミュジック・コンクレートの創始者として著名で、一般に、歴史上初めて音楽に磁気テープを用いた人物として認められている。しかし晩年には具体音楽に関わった自らの人生を「無駄だった」と総括する痛ましいインタヴューを残すことになった。
フランソワ=ベルナール・マーシュ『火の国』
François-Bernard Mache: Terre de Feu (1963)
フランソワ=ベルナール・マーシュは1935年4月4日フランス クレルモン=フェラン生まれ(82歳)。
1963年に作曲され、さらに厳しいコンポジションを経て来た『火の国/Terre de feu(Earth of Fire)』は、言語のすべての組織から逃れる邪道で瞑想的な作品である。 それは、時には逆説的にあまりにも似ている、火と水の騒音に対する作曲家の愛を反映している。 真実を伝えるために、これらの音は意図的に精緻な構築は実施されていないが、選択された音素材は同じ法則に従った生命を持っている。 一般的な形は自然現象に触発されており、聞き手はそれがあらかじめ論理の道筋を辿らなくても散歩に招待された音の存在の下で自分自身を見つけるだろう。この作品は、1965年2月6日にバレエ・キネシスの参加を得て、メゾ・デ・ラ・カル・ド・グルノーブルで制作された。初演は1966年9月22日ワルシャワで行われた。
ミシェル・フィリポ『研究III』
Michel Philippot: Etude III (1962)
ミシェル・フィリポは1925年2月2日フランス ヴェルジー生まれ、1996年7月28日,フランス ヴァンセンヌにて死去。
1962年に作曲されたこの作品は、先の2つの研究(1953年と56年)よりはるかに簡潔で厳格である。それは物質や組織には結びつかず、むしろこのアンサンブルを、一方ではそれらを思い浮かべる人に、そして他方ではそれを聞く人に結びつけるある神秘的な関係に結びついている。このような困難な領域に接近するためには、できるだけ簡単な音楽が必要だった。
フランソワ・ベイル『歌う鳥』
François Bayle: L'oiseau chanteur (1963)
フランソワ・ベイルは1932年4月27日マダガスカル出身。1958年、シェフェールが創設したフランス音楽研究グループ(GRM)に参加。二年間研究生として同機関に所属した後、1966年、役職に就く。1975年に創設されたフランス国立視聴覚研究所(INA)に同グループが一部門として統合されてからは、グループの最高責任者として1997年まで所長の役に就いた。
『歌う鳥』は『存在しない鳥の肖像画/I'Oiseau-Qui-N'existe-Pas』の第3部であり、1963年に 画家/映画監督のロバート・ラポウジェードをイメージして制作された。使用される技術は、マイクの可能性を考慮に入れて「実験的」になる伝統的な文章を使用し、一般化している。具体的な素材は表記以外の本質によって自主的な品質を前提としている。「チャント」は、フレンチホルン、オーボエおよびハープシコードのための短いフレーズを形作り、コンクレートおよび電子的な起源の音色クラスターによって拡大される。模倣は純粋な幻想であり、実際の旋律やリズミカルな前提に頼ることはない。
リュック・フェラーリ『無題 No. 2 B』
Luc Ferarri - Presque Rien No. 2 B (Ainsi Continue La Nuit Dans Ma Tête Multiple) (1977)
リュック・フェラーリ(1929年2月5日、パリ - 2005年8月22日、アレッツォ)はフランスの作曲家。特に電子音楽の作品で知られる。妻のブリュンヒルド=マイヤー・フェラーリも作曲家。
イヴォ・マレク『ダホヴィ』
Ivo Malec: Dahovi (1961)
イヴォ・マレク(Ivo Malec, 1925年3月30日 - )は、クロアチア、ザグレブ生まれの、フランスの現代音楽、電子音響音楽の作曲家、指揮者で、音楽教育者。
元々この曲はピョートル・カムラーの映画「構造」のために作曲された楽曲であり、作品の基本的なアーキテクチャを決定づける抽象的な画像で構成されている。 作品の音楽的内容をうまく制限するために、その建築は後でその共生的役割から解放されるように少し修正された。セルボクロアチア語のDahoviは、呼吸と呼吸を意味する。作業の新しい条件には、演劇、対立点、動き、小さな正方形の表面(ほぼ白い呼吸の中に残るような形になっている)に設定してから、色を変える 独自のリズム、ディメンション、インテンシティ、あるいは今度は次に異なる光を投影する外来のサウンドオブジェクトのバーストやシンチレーションなどがある。
ベルナール・パルメジャーニ『ダンス』
Bernard Parmegiani: Dance (1962)
ベルナール・パルメジャーニは1927年10月27日生まれ、2013年11月21日没の電子音楽、アクースマティック・ミュージックの作曲家。
1962年に制作されたこの作品を制作するにあたっては、ひとつの音源を使用する経験に頼っていた。声は習慣的に楽器でサポートされている。この操作は、声の自然な変化を明らかにして強調することを目的としている。要するに、ジェスチャーからダンスへの移行を可能にするものに類似した努力の一種であり、これはこれらの健全な動きが喚起しようとするものである。
コンクレート
鉄筋コンクリート
鉄コン筋クリート