A Challenge To Fate

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【地下音楽への招待】LLEレーベル特集 第4回:プログレッシヴ・ロック奇譚と地下迷宮〜ネガスフィア/ラクリモーザ

2020年02月05日 00時57分31秒 | 素晴らしき変態音楽


日本では70年代初頭からプログレッシヴ・ロックの人気が高かった。「ピンク・フロイドの道はプログレッシヴ・ロックの道なり」というキャッチコピーが付けられたピンク・フロイドの70年のアルバム『原子心母』がロング・セラーとなり、フロイド、イエス、エマーソン・レイク&パーマー、キング・クリムゾン、ジェネシスの通称5大プログレバンドをはじめ、英国を中心にクラシックやジャズや現代音楽の要素を持った長尺曲をレパートリーとする「プログレッシヴ・ロック」(通称プログレ)が紹介されて高セールスを上げていた。筆者は1976年、中学2年の時に冨田勲の『火の鳥』と『惑星』を聴いてシンセサイザーに興味を持ち、たまたまラジオで耳にしたジェネシスがシンセを使っていたのが気に入ってプログレの道に入った。友人からキング・クリムゾンやピンク・フロイドのレコードを借りて心酔していたが、同時期に出てきたセックス・ピストルズやクラッシュなどパンクロックのパワーとシンプルさに衝撃を受け、長く複雑なプログレは過去の遺物として聴かなくなった。

Genesis: Live 1973 - First time in HD with Enhanced Soundtrack


しかしパンクからポスト・パンク~オルタネイティヴ(当時はこう発音されていた)に流れが変わった79年ころに別の方向からプログレに出会うことになる。レジデンツやポップ・グループが好きになり、より前衛的・実験的なロックを探し求めていた時に本屋で手にした『Fool’s Mate』に載っていた英米以外のヨーロッパ各国のロックバンドの数々に、自分の知らないロックがこんなにたくさんあるのか!と驚愕しパンク以来の衝撃を受けたのである。特にR.I.O(Rock In Opposition/反対派)に属するヘンリー・カウ(英)、ユニヴェル・ゼロ(ベルギー)、アール・ゾイ(仏)、エトロン・フー・ルルーブラン(仏)、ストルミー・シックス(伊)といったバンドの悪魔的な写真や難解なレビューを読んで、それまでに知っていたロックとは異なる禍々しいインテリジェンスを感じ、音を聴いたことがないのに憧れの存在になった。しかしながら当時ヨーロッパの輸入盤はかなり割高(LP1枚もので¥3500前後)だったので、高校生にはおいそれと手を出せなかった。その代わりに重宝したのが1979年にスタートしたキング・レコードのヨーロピアン・ロック・コレクションだった。イタリア、フランス、ドイツなど英米以外のロックの名盤が1800円で手に入るなんて、まさに革命だった。内容的にはクラシカル/シンフォニック系が多く筆者が求めた前衛性・実験性に突出したバンドは少なかったが、聴きなれない民族色のある多言語のサウンドはイマジネーションを刺激した。80年にはキング・クリムゾンが復活し話題になった。イエスやジェネシスなど往年のプログレバンドが革新性を放棄し凡庸なポップサウンドでヒット・チャートに上るのに対して、エイドリアン・ブリューのトリッキーな歌とギターとポリリズムを前面に打ち出した新生クリムゾンは革新的だった。

King Crimson - Three of a Perfect Pair (Japan 1984)


80年代前半の大学時代は音楽サークルでオリジナルのニューウェイヴ・バンドをやる傍ら、先輩のプログレ・バンドに参加した。ジェネシスの曲名をバンド名に冠した正統派プログレ中心だったが、初めて弾く変拍子の楽曲は面白く、特にキング・クリムゾンで変態ギターを弾くのが快感だった。自分のバンドはオリジナル曲メインだったが、プログレバンドの方はカヴァー曲に終始した。メンバーにオリジナル志向がなかったことが大きな理由だが、複雑な構成のプログレ・ナンバーを自分で作れる自信がなかったことも確か。そんな時手に入れた音楽雑誌『Marquee Moon』の付録のソノシートでカトラ・トゥラーナというバンドの曲を聴いて文字通りぶっ飛ばされた。これまで聴いたロックやニューウェイヴやプログレとも異質なリコーダー(縦笛)と生ピアノをメインにした奇怪なサウンド、どこの国にもない造語で歌うヴォーカル。エキゾチックでエレガントでストレンジ。日本にこんなバンドがいることに心がときめいた。それがLLEレーベルとの出会いでもあった。『Marquee Moon』には毎号ソノシートが付いていてそのほとんどがLLEのバンドだった。もちろんニューウェイヴやエレクトロニクスもあったが、雑誌で特集されたユーロプログレの記事と相まって、LLEのプログレ的な面が強く心に焼き付いた。

Katra Turana - Mortera in the Moonlight (1981)


以前取り上げたオムニバス盤にもプログレッシヴな音楽性を持つバンドが多数参加している。いわゆる正統派よりもオルタナティヴなスタイルを持つ実験的なバンドが多い。今回はLLEのプログレ迷宮を象徴する対照的な2枚を紹介する。

●NEGASPHERE / Castle In The Air 砂上の楼閣
LLE Label ‎– LLE-1007 / 1984


A1 Gear Of Cosmos
A2 Beyond Love
A3 Another Dawn Is Breaking
B1 Holly Ground Ceremony
B2 At The Last Moment

真嶋宏佳:g,vo
菅野詩朗:ds
徳武浩:b
矢田徹:key
川崎薫:syn
Recorded at Green Studio Honancho Tokyo March '84 - June '84.

キーボード奏者・川崎薫を中心に1976年高校時代に結成された。のちにプネウマと名乗りLLEの中心的役割を果たす高沢悟も初期メンバーだった。LLEには珍しく「正統派」プログレを追求するバンドである。80年にカセットアルバム『Negasphere』をリリース、81年にオムニバス『精神工学様変容』に参加。メンバーチェンジを経て84年にリリースした1stアルバムが本作である。漫画家の千之ナイフによるカラージャケットは自主制作とは思えないクオリティ。内容はキーボードをメインとするシンフォニック・ロックで、LLE作品としては正統派過ぎて逆に異端的な感じがする。曲構成やテクニック面は秀でているが、残念ながらヴォーカルが弱い。レコーディング直前にヴォーカリストが脱退し、ギタリストがメイン・ヴォーカルを担当したというから仕方ないかもしれないが。聴きようによっては東欧のバンドが下手くそな英語で歌ったレコードに通じる愛おしさを感じることが出来る。正規ヴォーカルが参加した2ndアルバム『Disadvantage』(85)でヴォーカルの弱さは改善されるが、度重なるメンバーチェンジのため、86年に活動を休止。16年に亘る休止を経て2012年に活動再開。現在はアコースティックユニットNegAcoustikaとしても活動中。2019年11月にプログレッシヴ・アイドル、キスエクことXOXO EXTREMEと共演した(観に行けず残念至極)。

Negasphere 1985 - 23NOV2017 - 05 - Holy Ground Ceremony



●Lacrymosa ‎– Lacrymosa
LLE Label ‎– LLE-1008 / 1984


A1 Opus 2
A2 Le Chant Par Blaise Cendrars
A3 Junkie's Lament
A4 疑心暗鬼
B1 Vision I (The Death Of The Bird Of Paradise)
B2 時間牢に繋がれて
B3 Vision II (The Chuckle Laughter In The Question)
B4 The Resurrection
B5 Vision III (The Secret Treaty Of The Age Of Maitreya)

齊藤千尋:b,perc,vo
ASH:vln
中田晴一:cla
佐々木正博:ds
中川毅:reco
藤田佐和子:pf,hc
Recorded at Green Studio, Tokyo, Honancho & Our House Studio Mita, Aug/Oct 1984.

カトラ・トゥラーナのベーシストで、Chihiro S.として『Fool's Mate』『Marquee Moon』の編集・ライターとしても執筆活動していた斎藤千尋は、LLEと『Marquee Moon』の橋渡しをした功労者と言われている。カトラ・トゥラーナを脱退した齋藤が82年秋に結成したのがラクリモーザだった。クラリネット、リコーダー、ヴァイオリンといった非ロック的な楽器を取り入れ、中世音楽と現代音楽がミックスされた複雑怪奇な展開の演奏は日本におけるチェンバー・ロックの草分けと言える。R.I.Oとの精神的な共通点も明らかだ。採算度外視で作られた銀箔ジャケットを含め、LLEレーベルの美学が凝縮された一枚である。アルバムはほぼインストゥルメンタルだが、85年のEP『疑心暗鬼』ではアシッドフォークシンガー小山景子をヴォーカルに起用することで、海外のバンドに比べても遜色のないハイクオリティのサウンドを実現した。93年に2nd『破船の歓び』をリリースした後活動休止。その後も齋藤はゴールデンアヴァンギャルド、まぼろしペイガンズなどのバンドを結成し、現在も精力的に活動中。日本プログレ界の影の首領と呼びたくなる。一見異様な風貌だが、本人は冗談好きでおちゃめな愛すべきキャラクターである。

MABOROSHI PAGANZ - Henriette Krötenschwanz (AMON DUUL II cover)


プログレの
道の果てには
LLE

コメント (1)
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