The Oakland Elementary School Arkestra / The Saga of Padani
オークランド・エレメンタリー・スクール・アーケストラ / パダニ武勇伝
Modern Harmonic – MH-8067 / 2018
昨夜の【妄想映画論】『サン・ラ―のスペース・イズ・ザ・プレイス』と『スペクトルマン/宇宙猿人ゴリ』の隠された秘密を探れ! に続きサン・ラに関する話をひとつ。
古代エジプト神話の衣装に身を包み、古代神話や銀河旅行の説法と、スウィングジャズ、エキゾチカ、モダンジャズからフリージャズ、民俗音楽、電子音楽まで20世紀音楽史を横断する音楽性を開示するサン・ラ・アーケストラは、多くのミュージシャンや非ミュージシャンに影響を与えてきた。生活向上委員会や渋さ知らズといったフリースタイル・ビッグバンドはもちろん、NRBQやMC5、ソニック・ユースといったロックバンド、ジャイルズ・ピーターソンや松浦俊夫(United Future Organiztion)といったクラブ系、さらにはAcid Mothers Templeや暴力温泉芸者などノイズ系まで、サン・ラの音楽や思想にインスパイアされた(と思われる)アーティストは数多い。珍しいところでは90年代のAVに『全裸オーケストラ』というのがあった。女性だけのオーケストラが全員全裸で演奏するだけのビデオだが、当然ヴィジュアルに全神経が集中するので、どんな演奏かは全く頭に入っていない。
いかがわしいアダルト物がある一方で、純真無垢な子供たちがサン・ラの影響を受けた例がある。『The Oakland Elementary School Arkestra / The Saga of Padani』と題されたクリア・ヴァイナル2枚組のこのレコードは、90年代カリフォルニア州オークランド地区の小学校音楽教師ランディ・ポーターが指導する小4,5,6年生からなる子供オーケストラ(総称オークランド・エレメンタリー・スクール・アーケストラ)が、サン・ラをはじめとする即興音楽を学び演奏した記録である。1994年のCD『Big Music, Little Musicians!』と1997年のカセットテープ『The Thornhill Sound』からの抜粋。97年の音源には、サン・ラ・アーケストラのマーシャル・アレンとタイロン・ヒル、テリー・ライリー、フレッド・フリス、David Slusser、Dave Gordonといったプロの前衛音楽家がゲスト講師として子供たちのアンサンブルに参加している。
そもそも音楽演奏をするのに知識やテクニックは必要ない。最初は音を鳴らしたいという気持ちだけで、まずは声を出したり音を出したりしなければ始まらない。メロディやハーモニーが分からなくても「音」を発することで音楽表現が生まれる。特に即興演奏は文字通り「なにもない」ところから音で表現していく音楽だ。その意味では音を鳴らす欲求・衝動の第一段階に他ならない。一人で鳴らすことから、二人、三人と増えていくことで、お互いが音を鳴らす方法を身につけていく。それが本来の学びであり教育の道であろう。音を出す前に音階や楽譜を学んでしまうと、自然発生的な学習の機会が失われ、知識に縛られた表現に陥ってしまう。まず音を出してみよう、知識やテクニックはその後に付いてくる。赤ん坊が歩行や言葉を身に着けるように音楽を学ぶことができれば素晴らしいのだが。。
果たしてランディ・ポーターが小学生に楽譜や理論を教えたかどうかは分からないが、このレコードに記録された音の自由さを聴けば、子供たちが形骸化された音楽から見事に解放されていることが分かる。拙さは別として、サン・ラ・アーケストラやアート・アンサンブル・オブ・シカゴのデモテープだと言われたら信じてしまうかもしれないが、プロのミュージシャンのように恣意や邪念がない分、オークランド・エレメンタリー・スクール・アーケストラのほうがより開かれた即興演奏の原点に近いと言えるだろう。この子供たちは成長してからどんな音楽を演奏するようになったのだろうか?もちろん別の分野に興味を持って音楽演奏を辞めた子供も多いに違いない。そんなことを考えるにつけ、このレコードに記録された音楽の奇跡の光が一層眩しく筆者の心の闇を照らすのである。心の澱の浄化こそ太陽神=サン・ラの天啓である。
We Travel the Spaceways (feat. Marshall Allen)
The Oakland Elementary School Arkestra bandcamp
小学生に
サン・ラの映画を
観せてあげたい
『宇宙猿人ゴリ/スペクトルマン』を観ていた子供の頃の自分だったら、この演奏に近づけたかもしれない。