日々忙しく動いているので、今日が演劇鑑賞日であることをすっかり忘れていた。36分前に私のiPhoneが、今日、演劇を見ることになっていることを教えてくれた。あわてて天竜川駅まで家人に乗せていってもらい、会場に着いたのは約5分遅れ。もうステージは始まっていた。
今は浜松演劇鑑賞会といっているが、私の若い頃は浜松演劇鑑賞協議会といっていた。略称浜松演観協であった。高校生の頃からずっと、一時職場が忙しくなったことからやめていたが、人生の晩年になって再度入会した。
私が若い頃、演劇を見る人びとは皆若かった。そして私が老いて行くにつれて、ホールに集まる人びとも老いてきている。演劇を見る年齢層はずっと一定だということである。若い頃からみつづけて、今はほとんどが老境にあるということである。
さて今日の演劇は、そうした老境にある人びとに向けたミュージカルであった。キャストも、年齢はわからないが、おそらく齢いを重ねてきている方々。台詞の中に、みずからの老いを語るシーンが多かった。
舞台では、二人の老いた女性が、キャバレー「ミラクル」があと一週間で閉店するということから、それぞれが昔語りをする。38年間、「ミラクル」でうたい続けた二人は、ここでたくさんの思い出を持っている。しかし二人の女性はそれぞれの人生そのものをすべて知っていたわけではない。閉店まじかになっているからこそ、語りたいことが次々と浮かんでくる。ボーイフレンドのこと、結婚のこと、夫が認知症になってきていることなど、とにかく過去のことを語る。
でも生きていれば、いつも「新しい」ことが目の前に出現する。その「はじめて」を乗り越えていくことが生きていくことだということを語り、また唄う。
老年期に差し掛かった女性が喜ぶような内容であった。老年期にある私も楽しんだが、台詞など女性の方がより身近に感じただろう。
「O.G.」は、old girlsのOとGである。
人は生まれて歳をとり、この世から去って行く。「灯が消えるのを待つ」老境にある人でも、舞台に立っている二人の女性のように、元気で生きながらえていく。老人は「集団自決」せよ、という過激な言説もあるが、しぶとく、この世の限り生き抜いて、生き抜いて、「はじめて」を体験していこう、と老境にある舞台上の二人の女性は、がんばっていた。