とてもよい本である。対談本なので読みやすい。しかし内容が濃い。
対談本というのは、読みやすいのでさっさと読みとおしてしまうが、一度読んだら読み返すことはなく、しばらくたったら時代遅れとなって捨ててしまうものが多い。私は対談本を何冊も読んできたが、読み返すことはせず、本を処分する際には真っ先に処分してきた。
だがこの本は、もう一度じっくり読んでみないといけないと思った。読みやすいのですらすら読めるが、ところどころに重要な指摘がある。その指摘にしるしをつけることなく読んできたので、もう一度読まなければならない。
村山由佳の本は、伊藤野枝の『風よ あらしよ』だけ読んだことがある。この本については高い評価を与えたことがある。栗原康のいい加減なものではなく、『風よ あらしよ』は、明らかになった事実をもとに構築されたもので、基本的には史実とも合致している。なぜ歴史家でもない村山がきちんとした史実をもとに描くことができたのか、その背景が本書に記されていた。校閲をきちんとやっていた、ということだ。校閲の担当者が国会図書館に通い続けて史実を調べ上げて、村山を助けたようだ。
本書は今年刊行されたものだが、対談自体は2023年に行われた。言うまでもなく、関東大震災100年の年である。関東大震災のとき、多くの朝鮮人・中国人が虐殺され、また大杉栄、伊藤野枝、橘宗一も虐殺され、さらに亀戸事件もあった。そして村山が『風よ あらしよ』を著したから、当然1923年のことが語られている。この本のよいところは、ただ単に記憶によるのではなく、朴が書物に書かれていることを読みあげながら対談していることだ。単なる語り合いではない。
対談の内容はそれだけではなく、日本社会に巣くう諸々の病理について語り合う。またそれぞれの生きていた筋道をも語り、その点でもいろいろ考えさせられる。
書きとどめることをここに書くことができればよいのだが、さっと読みとおしてきたのでそれがかなわない。
この連休、読んでみてはいかがかと思う。ユーチューブチャンネルの佐高信の番組で、この著者二人との対談もあり、理解が深まるだろう。